第一章
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強烈な日差しが都会の澱んだ大気を貫き、コンクリートとレンガで覆われた街路に降り注ぐ。そこで熱せられた大気はゆっくりと立ち上り、空高く聳える高層ビルをも包み込み、あの威容を誇る巨大な都庁ビルが蜃気楼のようにゆらゆらと揺れて見える。都会は、まさにコンクリートが作り出した巨大な人口の砂漠なのだ。
ビル内を快適するために吐き出された熱が外にいる人々をむかつかせる。その内側からガラス越しに行き交う人々を眺める女も、幾許かの代価を払って一時の清涼を得ているに過ぎない。
都会の雑踏は、せっかちな人間をただでせさえ苛立たせるし、さらに熱気と湿気は体中にへばり付いて不快さを一層つのらせる。汗を拭うハンカチはあまりにも小さく、ましてぐちゃぐちゃに濡れていた。それでも二人の男は黙々と歩き続ける。
ようやく雑踏を抜けだし、都庁を過ぎて中央公園をさしかかると、若い方の男は立ち止まって遅れて歩いてくる中年の男を待った。左手に抱えた背広が汗で濡れている。
深い緑に覆われた公園には、木陰で昼寝をするホームレス、暑さにもめげず抱き合う若いカップル、そして子供連れの母親達がいるだけで人影もまばらである。若い男は立ち止まると、公園内の時間にゆとりのある人々をぼんやり見ていた。遅れてきた中年の男は額の汗をハンカチで拭きながら、いかつい顔に笑みを浮かべ若い男に声を掛けた。
「原ちゃんの脚が長いのは分かったよ。でも、もうちょっとゆっくり歩るいてくれると助かるんだが。」
原と呼ばれた男は肩をすくめ、少し困ったような表情を見せると「はあ」と曖昧に笑ってみせたが、中年の男が追い付くとすぐに歩き出した。
原の背中を見つめながら、榊原は苦笑いしながら長い息を吐いた。そしてある拷問の話を思い出した。囚人に深い穴を掘らせ、翌日埋め戻させる。これを繰返すのだそうだ。無意味なことをやらされるという拷問は結構堪えるのかもしれない。
石神井署に捜査本部が置かれて既に5ヶ月が過ぎようとしている。当初、楽観的に早期解決を予想していた刑事達の苛立ちは頂点に達しつつあった。原もその一人なのである。榊原はもう一度長い息を吐いた。
それから15分後、二人は喫茶店にいた。
「まったく、しょうがないなあ。大先輩の榊原さんには逆らえないし、まあ、確かに熱くて死にそうだってのは僕も一緒ですけど。」
と言って、原は汗を拭きながら大ジョッキいっぱいのアイスコーヒをストローでチュウチュウと音をたてて飲み続けた。その前に座る榊原は相棒の膨れ面に気付かぬ素振りで氷アズキをせっせと平らげてゆく。
「真夏の聞き込みには水分補給は欠かせない」
と呟いてみたが、原は聞こえないふりを決め込んでいる。何度も、といってもまだ2度目なのだが、喫茶店に入るのが気にいらないらしい。とはいえ、原も水分を
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