開戦
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てさて、まずいな。急いでるって時に」
コンテナの森はその赤い姿のまま士郎の目の前で形を変えていく。まるで出来の悪いSFだなと士郎はつぶやく。コンテナたちは最終的にいくつかが合体し、数十体のできの悪いロボットのおもちゃのような姿になった。
「はあ、仕方ない」
気の抜けた溜息は力を程よく抜いていく。
まぁ、凛のことだし、もう今の緊急事態には気づいているだろう、と士郎は一人自分の戦闘に納得をして、
「投影開始」
とゆっくりとつぶやく。するとどこからともなく、士郎の手に突然二本の夫婦剣が現れた。
これこそ士郎の唯一にして最高の切り札、投影魔術。通常の魔術師なら一瞬で血液が沸騰し死ぬほどの難易度たる魔術。それはこの男は悠々とこなす。
「行くか」
士郎は疾走を始めた。少し厳しい散歩のような、そんな感じで魔術師は駆け抜ける。
次々と現れるコンテナの化け物たち。それをまるで芝刈りのように切り裂いていく。それは少し難易度の高い庭仕事。士郎はコンテナたちを悠々と切り裂いてなお、余りある威力と切れ味でコンテナたちに悲鳴とも取れない金属音を上げさせていく。
振るう剣は干将莫邪。魔のものを相手にする際には本来の力よりも少しばかり上の力を発揮する剣だ。このコンテナのロボットたちにはちょうど良い。
ロボットたちは奇妙な形の腕を振り上げ、振り下ろして必死に庭師のことをつぶそうとする。必死かどうかすら表情からはわからないがロボットたちの抵抗を士郎はかわし、干将莫邪で刈り取っていく。
「ん?」
その士郎の簡単なお仕事も終わりを迎える。
コンテナたちの森が終わりを告げたのだ、気づけば、そこは拠点に最も近い国道の近くだった。
しかし、士郎は安堵など全くする暇もなくコンテナたちとは比べることもできないような強烈な気配を漂わせている一つの黒い影に気付いた。
「・・・」
その正体を探す。
士郎はすぐにそれが初老の、英国にいたような外套を纏った男だと分かった。
森の時が止まったような静けさは両者の間の空気を凍らせる。
「ふむ」
一瞬で今度は士郎の表情が凍りついた。
ここ数年、士郎はここ数年ニュースなどでは紛争地帯と呼ばれる、現地の人間にとっては地獄にでしかない場所で多くの修羅場をくぐってきた。そんななか、彼の心眼ともいえる動物的な直観は育ってきた。それ故にわかってしまった。ほんのわずかな相手の吐息で、その実力、自分との差が。
魔術回路に魔力をゆっくりと流そうとする。
「え」
士郎の表情に驚きが加わる。魔術回路が動かない。それこそ、冬に凍ってしまった川のような感じに。
しかもゆっくりと、男は近づいてくる。
士郎はゆっくりと目を閉じ、自分の終わりを感じ取った。
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