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夢遊病の女
第一幕その十三

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第一幕その十三

「ここで出てもだ。かえって」
「そう、私は」
「今度は何だ?」
「ずっと貴方と一緒にいたいのよ」
 またエルヴィーノへの愛を語るのだった。
「だからこうして」
「しかし。困ったな」
 伯爵は動くに動けず途方に暮れだしていた。
「このままだと誰か来たら」
「これは」
 そして。彼の危惧は思った瞬間に当たってしまった。
 何とここにリーザが出て来たのである。そしてアミーナを見て。
「アミーナ、まさか」
 それを見てそっと立ち去る。伯爵もそれには気付かなかった。
 そして気付かないまま。アミーナを見ながら戸惑い続けていた。
「どうしたものか」
「明日は」
 アミーナの言葉が変わった。
「教会ね」
「今度は婚礼の話か」
「神父様の御前で」
「ふむ」
 この村がカトリックの村なのがここでわかった。スイスには様々な民族と様々な宗教が混在しているのである。案外複雑な国家なのだ。
「その時を夢見ているのか」
「教会にいる人達が」
「その時を夢見ているか」
「きっと私達を祝福してくれて」
「それは素晴らしいことだ」
「皆何て嬉しそうに私達を祝福してくれるの?」
 そのことを夢の中で見ているのである。
「本当に素晴らしいわ」
「確かに」
 それには伯爵も同意見だった。
「この娘の心は今は喜びの中にある」
「聖歌に包まれ」
「祭壇だな」
「聖火は燃えて」
「間違い内」
「そして」
 だが。ここでアミーナの言葉が一変した。
 突如恐れを見せて。そうして言うのである。
「駄目よ、それは」
「どうしたんだ、今度は」
「お義母さん」
 テレサを呼ぶのである。
「来て、私はもう」
「私は?」
「立っていられないわ」
 こんなことを言うのだった。突然に。
「だからもう」
「一体これは」
「神よ」
 今度は祈りはじめた。立ったままだが。
「私は」
「貴女は?」
「私の夫に永遠の貞節と愛を誓います」
 誓いを言うのであった。
「今ここで」
「間違いない」
 彼はアミーナの心を確かに知った。
「この娘程清らかな娘はいない」
「永遠に」
「汚れなく純粋な百合よ」
 彼女への言葉である。
「貴女は貴女の美しさと清らかさを保つのだ」
「そう、そして」
 アミーナの声が喜びに包まれまた発せられる。
「エルヴィーノ」
「やはり彼か」
「貴方はとうとう私のものよ」
「よし、それではだ」
 ここで彼は決断を下したのであった。

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