第一幕その十二
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第一幕その十二
「それでなのですが」
「はい」
「おや?」
さらに言おうとした。しかしここで。不意に外から物音がしたのである。
「あれは一体」
「見てきます」
こう言って部屋から出るリーザだった。その時にハンカチを落とした。
伯爵はそれを見つけ呼び止めようとする。だがそれよりも早く行ってしまった。彼は仕方なくそのハンカチを拾ってそれを懐の中に収めた。
「後でお返しするとしよう」
こう決めて。そして部屋に。
何と白い服の女が入って来たのだ。これには伯爵も驚いた。
「何っ、まさか」
本当に幽霊なのかと思った。だが。
よく目を凝らしてみるとだった。それは。
「いや、違うな」
それに気付いたのだ。それは。
「あの娘さんだ」
アミーナであった。彼女がぼうっとしてそれで歩いて来たのである。
その顔は虚ろであった。目も見えているかどうかわからない。その顔でやって来たのだ。
アミーナは部屋に入りながら。こう呟いていた。
「エルヴィーノ」
「あの恋人のことか」
「エルヴィーノ」
またその名を呟くのだった。
「どうしてなの?」
「むっ!?」
伯爵はその彼女を見て言った。
「これは一体」
「どうして貴方は」
「これはまさか」
「答えてくれないの?」
「間違いない」
一人呟く彼女を見てあることがわかったのである。
「これは夢遊病だな」
「貴方はまだ」
ここで微笑むアミーナだった。
「気にしているのかしら」
「気にしているとは」
「あのことを。気にすることはないわ」
「どうやらあの花婿とのことだな」
伯爵にもそれがわかった。
「どうやらな」
「そんなことはね」
「さて、ここは」
ここで伯爵は少し考えたのであった。
「起こすべきか?」
「気にしなくてもいいじゃない」
アミーナは一人言葉を続けていく。虚ろなままで。
「だって私には貴方だけよ」
「貞節は確かだな」
「それはもうわかっているでしょ?」
「このままではだ」
ここで伯爵は結論を下した。
「彼女にとってよくはないな」
「貴方だけしか見ていないのに」
「だからこそだな」
「それで言うなんておかしいわ」
「よし、目を覚まさせてあげよう」
こう言って近付こうとする。しかしであった。
アミーナは立ったままさらに言うのであった。まさに夢の中で。
「安心して」
「むっ!?」
「安心していいのよ」
彼女の今の言葉に思わず動きを止めてしまった。
「私は貴方だけだから。さあ」
「これは」
彼女は右手を少しあげた。そしてまた言うのだ。
「接吻を」
「その手にだな」
「この手に接吻を」
さらに言うのである。
「二人の永遠の平和の為に」
「これは駄目だ」
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