反転した世界にて9
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翔子は、拓郎が発した言葉を、ありとあらゆる見地から吟味し、噛み砕いた。当然、それはただ言葉を言葉として解釈するのではなくて、その時の拓郎の表情や仕草、言葉を発したタイミングやら何やら、いわゆる、『空気』と呼ばれる要素をも加味したうえでの検証だ。
数秒間は、脳の思考回路がただそれだけのために稼働してしまって、絶妙な沈黙が二人の間を通り抜ける。
「……――、うん」
翔子は頷いた。
拓郎は顔をほころばせる。苦笑いか、照れ笑いか。笑うということに慣れていなさそうな拓郎の、心からの笑顔だ。
――ジュンと、身体の奥底が熱を持って潤っていくのを、翔子は感じた。
「……」
「……」
――拓郎の家までの道のりに、言葉はなかった。
というか、何をしゃべっても駄目な感じがしたのだ。思いついた単語は、全てが卑猥で下ネタなベクトルに変換されてしまう。元来、“スケベなことばかり考えている女子”としてクラス内では通ってきているだけに、何を言っても、拓郎にそのように受け取られかねない。
――そんな風に受け取られたら、軽蔑されてしまうかもしれない。などと、今更ながらに、余計な心労を胸の内に募らせていたのであった。
「……っ、……」
「……(汗)」
だから、出来るだけクールに。全然期待なんかしていないし、家に上がっても、そんなことは一切致しませんし、欲しがりません。
私、淑女ですから。送り雌豹になんてなりませぬし、お茶を頂いて、何気のない雑談に華を咲かせて……、御夕飯なんかごちそうになっちゃったりして、ついでにお風呂まで借りちゃったりして、そして……。
そ、して……――、
「〜〜っ! ……〜っ!!」
「……(苦笑)」
泥沼だった。
思考ですらこれなのだから。口を開いたりしたら、何をのたまってしまうか知れたものではない。って、いうか。別にエッチなことなんて考えてませんし。ただ単に、拓郎くんの家に誘われたってだけで、そんなあらぬ妄想をしてしまうほど、色狂いなんかじゃありませんから――……。
以後、思考のループ。
せめて、この動揺と緊張と欲情だけは悟られまいと、肩に力を入れて気張る翔子だったが。
そんな努力は、しかし後の展開と、苦笑を堪えている拓郎の様子を鑑みるに、徒労でしかなかったのであった。
◇
「……っ、――! ……〜〜!?」
「……」
電車から降りても、一言も喋ろうとしない白上さん。っていうか、なんだかいろいろと妄想をしているのがバレバレだったり。
僕も大概、緊張してはいるのだけど、隣でこうまでガッチガチになられていると、相対的に冷静な気持ちになれる。
――電車に乗ってから、今、僕の家にまで向かう道のりの間。白上さんは僕
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