反転した世界にて9
[2/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
の手をずっと放そうとしない。それどころか、指と指を絡ませ合って、いわゆる“恋人繋ぎ”と呼ばれる形になってしまっているのだけど、多分、白上さんは気づいてはいないんだと思う。電車の中でまでこんなだったので、ちょっとだけ周囲の視線が恥ずかしかったりなんだったり。
「……、……っ」
「……」
一歩一歩を踏みしめるたびに、手と手の間に僅かなズレが生じて、入り込んだ空気がスースーする。
二人分の手汗が、二人共の手のひらを豪快に湿らせているのだけど、手を離そうという気にはまるでならなかった。
「……」
「……」
不思議なことに、全然嫌じゃない。
白上さんの方はそれどころではなさそうだけれど。なんというか、この雰囲気というかおもむきというか情緒というか。ただ手を繋いで、帰路を歩くだけのこの行為が、嬉しい。
幸せ、なのだと。そんな言葉が、自然と頭の中で反響した。
――はっとする。
「……っと? あ、赤沢くん?」
唐突に僕が足を止めてしまったものだから、気づかずに歩いていた白上さんが、僕の手に引っ張られるような形になってしまって、つんのめりかけてしまう。
「……」
住宅街のど真ん中。
あの日、“僕が足を躓いて、思い切り頭を打ち付けてしまった”その場所だった。
普段であれば、何も気になることなどない、こんな風に足を留めてしまうほどの価値はない、そんな地点にて。
僕は足元に転がっている石ころから、目が離せなくなった。
「どうか、したの?」
「……ん、いや」
訝しげに訪ねてくる白上さん。どうかした、ということはない。
実際のところ、なにか深い意味があって足を止めてしまったわけではない。本当に、ふと、『あの時、多分この石ころに蹴躓いたんだろうなぁ』と、その程度の感傷を覚えていただけのことだった。
――だから、その後の行動にも、やっぱり深い意味はなくて、
「――ていっ」
コツンッ、と。つま先でその石ころを蹴っ飛ばす。
カン、カンッ、コロリと。軽快な音を響かせながら跳ねたその石ころは、道の端、排水溝の中へと吸い込まれていくようにして、消えていった。
……。
「……行こう」
「あ、うん」
僕の奇行は、しかし白上さんにとっても、何気ない動きでしかなかったようで。
緊張をほぐした様子はなく、さっきまでと何も変わらない、ガチガチに肩を強張らせたまま、白上さんは僕の横に並んで歩き出した。
◇
「――着いたよ」
「――んぁっ!? う、うんっ!」
急に息を吹き込まれた風船のように、白上さんは僕の声に反応して背筋をピンと伸ばす。
――思えば、誰かを自分の家に招くという経験は、初めてのことだったのだけれど
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ