ALO編
episode6 彼女の想い2
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く、誇り高い、主の姿。仕えることを言い渡され……仕えると誓った、金髪碧眼の青年の姿。陶酔したように固まっていく脳とは無関係に、口は淀みなく言葉を紡ぐ。
「仕えるべきは、本家たる四神守。従うべきは、主人たる貴方様、シエル・デ・ドュノア様でございます。私の御主人様である、貴方様でございます」
響き渡る主人の声に、その重い、堂々とした言葉に、脳が、甘く痺れる。
現実世界でも、この仮想世界でも、どこか軽薄で飄々として、そして自信なさげな態度の主人。彼を主人として傍に付き従いつつも、どこかその言動に不満を抱いていた。主人は、主人なのだ。自分の主として、格好良く振舞ってほしい。威厳に満ち溢れた言葉で自分に命令してほしい。主人の誇り高さを、存分に見せつけて欲しい。
―――そうだ。私はこれを求めていたのだ。
蕩ける様な快感が身を包み私を、主人の為だけに生きる一つの存在……『神月』のあるべき姿へと変質させていく。途方も無い達成感と、充足感。
「ならば、『四神守』の血を継承する者として、我が付き人たる『神月』に命ずる! この工房での《竜鎧》の完成と共にこの場を発ち、一刻も早くアルンへとこれらを運搬せよ! あらゆる手段を用いて、最速の行動を取れ!」
朗々と謳い上げられる命令。
熱病にでも罹ったかのように疼く体が、深く頭を垂れる。
「畏まりました。全てはご主人様の仰せのままに。『神月』……『四神守』に仕える者として恥ずかしくない仕事をお約束致しましょう」
深く、深く下を向いたまま、主人を見送る。全ての指示を出し終えて扉へと向かうその主君の歩みを、見ることすらも恐れ多いと感じながら耳で追う。その、極限まで澄ました耳に。
「……ありがとう…牡丹さん……」
ほんの小さな、彼の呟きを聞いたように錯覚した。
◆
扉を閉めて、一気に走りだす。まだ時間が時間なせいで、流石に道行く人は疎ら。全力で駆け抜けようとも人に迷惑はかかるまい。その飛ぶような疾走とは裏腹に、心は重かった。また溜め息を一つつく。全く、今夜だけでもう何回目だ。
(言わせたく、なかったんだがな……)
喋らない、ブロッサム。
思えば、最初から不思議ではあった。旧世代のゲームのようにボイスチャット……つまりは声が向こうの世界での自分のそれと完全に一致するゲームと違い、このALOでは声はランダムパラメータだ。だから声で正体がばれる、などということはありえないにも関わらず、なぜ彼女は喋らないのか。
恐らくそれは、彼女の精一杯の妥協だったのだ。主人である(ということに名目上なっている)自分に対して気兼ねなく発言するのはやはり気が引けたのだろう。だから、テキストチャットを使った。
……まああ
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