第三幕その六
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鐘の音が城の方から聞こえてきたのである。
「あの鐘の音は」
「ルチア様が」
「もう」
「そうか。ルチアは旅立ったか」
エドガルドは全てを悟った。そして。
「最早私の運命は決まった」
「!?一体」
「どうされるのですか?」
「どちらにしろこうなる運命だった」
腰の剣を抜きながらの言葉である。
「ならばだ」
「ならば!?」
「しかしそれは」
「この世に望みはない」
言いながらその剣を胸にやる。だがここでライモンドが来て彼を止めるのだった。
「お待ち下さい」
「ライモンド殿か」
「そうです」
その彼が来て止めるのだった。
「貴方まで死なれることはありません」
「だがルチアはもう」
「しかし貴方は生きておられます」
「私の全てはルチアと共にあった」
言葉は既に過去のものだった。そしてその目も。
この世を見てはいなかった。既に。彼は旅立とうとしていたのだ。
そして今。言うのだった。
「神の下に向かう貴女に言おう」
「ルチア様に」
「そうだ。心を穏やかにして私の方に向いて欲しい」
剣を放しはしない。決してだった。
「貴女に誠を誓った男が貴女と共に天に昇れるように」
「それだけはどうか」
「例え人間達の怒りが私達の間にこの様な残酷な運命を与えても」
ライモンドの制止は最早彼には何の意味もなかった。
今まさに剣を胸にやり。また言うのだった。
「私達二人がこの世で隔てられたとしても」
「しかし貴方まで」
「天上で神が結びつけて下さる様に。私は今」
こう言って自らの胸を刺した。彼もまた全てを終えたのだった。
「貴女の場所へ行こう」
「何故こんなことを」
「私にはこの世はあまりにも悲しかった」
エドガルドは死に瀕した顔で呟いた。ライモンドがその彼を支える。しかしそれは最早何の意味もなかった。彼の死は間も無くだったからだ。
「しかし神の傍では」
「ルチア様と共にですね」
「そう、共にいられる」
こう言って今崩れ落ちた。そして最後の言葉は。
「そして永遠に貴女に誠を誓おう」
「全ては終わった」
ライモンドは事切れたエドガルドを抱きながら呟いた。
「神よ、全てを許し給え」
鐘の音がまた鳴り響いてきた。それは静かな鎮魂の鐘の音だった。朝になろうとしている墓地にまで鳴り響き。悲しい運命を辿った者達の魂を慰めていた。
ランメルモールのルチア 完
2010・1・6
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