第三幕その四
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第三幕その四
「虚ろな顔でこう仰いました」
「どうなのですか?」
「何と仰ったのですか?」
「私の夫は何処にいますか?」
この上なく不気味な声になっての言葉である。
「そして蒼ざめた顔で」
「そのお顔で」
「微笑まれました。最早あの方は」
「何ということ・・・・・・」
「恐ろしいことだ・・・・・・」
誰もがここまで聞いて唖然となってしまった。
「不幸が起こってしまった」
「何よりも恐ろしい不幸が」
そして呆然として呟くしかなかった。そしてそこに。
「ル、ルチア様!」
「アリーサか?」
「は、はい。大変です!」
ライモンドの声に応えてきた。声は広間に向かう廊下からだ。
「ルチア様がこちらに!」
「何だと!」
広間に彼女が現われた。簡素な純白の服のあちこちに鮮血が付き紅く染まっている。そうして乱れた髪はそのまま顔はこれまで以上に蒼白となっており血の気は失せて亡霊の如き様相になっている。目は虚ろでそれと同じだけ朧な微笑みを浮かべている。
「何ということだ・・・・・・」
「あれではもう・・・・・・」
「あの方のお声が聞こえて」
ルチアは広間の中央に来て呟きはじめた。
「私の心に届いて滲み込んで」
「それはまさか」
「あの家の」
「エドガルド様」
そしてその男の名前も口にした。
「私は貴方のところに戻りました」
「そこまであの男のことを」
「そうだったのか」
皆あらためてそのことを知ったのだった。
「しかしそれで」
「この方はもう」
「冷たいものが私の胸を這い回り身体中が震え」
「もう駄目だ」
ライモンドはその彼女の顔を見て言った。
「死相だ」
「死相、それでは」
「そうだ」
横に来たアリーサにも話した。
「ルチア様はもう」
「そんな・・・・・・」
「心も何もかもが失われてしまった」
それが今の彼女なのだ。
「これでは」
「泉の傍に行き」
ルチアはここで急に怯えた顔になった。そうしてさらに呟くのだった。
「亡霊が来ました。早く逃げましょう。そしてあの祭壇の場で」
「最早何もかもが終わった」
「絶望だけがある」
「薔薇の花が咲いています。そして天界から歌が聴こえ」
今度はその虚ろな顔で上を向いていた。
「讃歌が私達の為に。全ては私達の為に」
「あの方にはもうそうしたものしか見えていないのだ」
またライモンドが呟いた。
「最早な」
「この世のものは」
「見えはしなくなった」
またアリーサに述べた。
「何一つとしてな」
「・・・・・・それでは間も無く」
「この世を去られる」
その死相のルチアを見ての言葉だ。
「それはもう誰も止められはしない」
「私は幸福です。心に感じられても言葉には表せない喜び」
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