第三幕その三
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第三幕その三
「限りない喜びの声がスコットランドに満ち」
「それは海辺から海辺へと」
「深い森の中にまで」
「何処までも満ち」
自然と歌声になっていた。そうしてだった。
「敵は去った」
「あの男達は」
エドガルドのことも思い出したがそれは幸福を際立たせる香辛料に過ぎなくなっていた。
「もう去りました」
「残っているのは」
「深い恵みの風」
「それだけです」
こう歌っているとであった。ライモンドが息を切らして部屋の中に入って来た。その足取りはよろめいていてそれだけで何か不吉なものを感じさせていた。
「大変です!」
「司祭様ではないですか」
「どうされたのですか?」
「顔が真っ青ですよ」
誰もがその彼に声をかける。
「一体全体」
「何かあったのですか?」
「恐ろしいことが起きました」
こう皆に告げるのである。
「とてつもないことが」
「恐ろしいこと?」
「といいますと」
自然にダンスも音楽も中断されていた。皆そのうえで彼に対して問うのであった。
「それは一体」
「何でしょうか」
「ルチア様がです」
「花嫁殿がですか」
「どうされたのですか?」
「お部屋から聞こえてきました」
ライモンドはその蒼白の顔で言っていく。
「御二人が入られたそのお部屋の中からです」
「そこから?」
「一体何が」
「死に瀕した人の声がです」
まさにそれだというのだった。
「それが聞こえてきました」
「死の声が!?」
「まさか」
「いえ、そのまさかです」
こう驚く一同に話すのだった。
「私がその部屋に駆け込みますと」
「どうなったのですか!?」
「一体何があったのですか?」
「恐ろしい不幸がそこにありました」
そしてさらに言うのであった。
「アルトゥーロ様がです」
「あの方が」
「まさか!?」
「そのまさかです。床の上に横たわっておられました」
「何ということ・・・・・・」
「それでは死の声は」
「言葉もなく冷たくなって」
ライモンドはその不吉な言葉を続けていく。
「血に塗れておられました」
「ではルチア様は!?」
「どうされたのでしょうか」
「ルチア様が」
ライモンドの言葉がさらに震えていく。その中での言葉であった。
「そこにおられました」
「では御無事か」
「それは何より」
「いえ」
しかし無事という言葉はライモンドによってすぐに打ち消された。
「そうではありません」
「といいますと」
「どうなったのですか?」
「殺されたアルトゥーロ様の剣を握り締めておられました」
「何と!」
「それでは!」
「はい、そうです」
ライモンドはその震える声で一同に話していく。
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