第百二十五話 独眼龍の上洛その八
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その中でだ、早速言う政宗だった。
「わしが来ることをわかってそのうえでおったな」
「だとしたらどうじゃ」
「心憎いのう」
政宗は笑みで言う。
「そこが」
「心憎いか」
「うむ、してやられたわ」
「そのまま声をかける訳にもいくまい」
お忍びで来ているからだ、それは無理だった。
「だからじゃ」
「それでなのですか」
「そうじゃ、あらかじめここにいてじゃ」
そしてだというのだ。
「御主が来るのを待っておったのじゃ」
「来ることを確信してか」
「そうじゃ」
信長は確かな笑みで政宗に返す。
「そして御主が店の中に入ることもな」
「全て読むとはな」
「それが心憎いか」
「うむ、憎いわ」
こうは言ってもだった、政宗は笑みだった。
そしてその笑みでこうも言ったのである。
「しかし今回は負けたがな」
「それでもか」
「次はこうはいかぬからな」
「ほほう、わしを出し抜くか」
「わしは天下を手中に収める者じゃ」
堂々と言い切った、まさにそうした言葉だった。
「出し抜くというのは言葉違いじゃな」
「そう言うか」
「そうじゃ。御主もわしの下につく」
信長自身に言い切る、その言葉を受けて。
柴田達が思わず身構える、そして言葉に出そうとした。
「伊達殿、それは」
「幾ら何でも」
「よい」
他ならぬ信長の言葉だ。
「ここは茶の場ぞ。怒る場ではない」
「ですが殿」
「今の伊達殿のお言葉は」
信長は天下布武を掲げている、その信長に正面から言ってきているからだというのだ。
だが信長は家臣達に言った。
「わしが言わぬと思うか」
「といいますと」
「殿もですか」
「わしは人を求めておる」
信長は政宗と同じ笑みで返した。
「天下の為にな」
「ほう、ではわしもか」
「御主もじゃ」
彼もだというのだ。
「そして他の大名達もな」
「どの者も御主の家臣となるか」
「わしの天下には多くの者が必要だ」
「わしを使うか」
「使ってみせる、どの者もな」
「面白い、そう言うのならな」
政宗は茶を悠然と手にしている、口はつけていないがその悠然とした構えでそのうえで言ったのである。
「わしを従えさせてみよ」
「そうすればか」
「わしの目は一つ、しかし二つ目と同じものを見ておるわ」
隻眼であることに怯みを見せない、むしろそこに余裕さえ見せてそのうえでの言葉だった。
「独眼龍を従えられるのならな」
「力で従えても面白くないのう」
政宗を見ての言葉だ。
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