Episode2 ハズキ
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コロが風邪引いちゃったときがあって――」
迷宮区を出るまでの道のり、俺の前を歩くアカリという少女はひたすらに喋り続けた。好きな食べ物から始まり今は彼女の家で飼っているペットの話だ。本当に取り留めのない話を俺に話しまくる。実に楽しそうに。
まるで言葉を覚えたばかりの子どものようだ。話すことが次々あちらこちらに飛び、聞いている方が疲れるようだ。
それでも引き込まれる。会話の内容に、というより話す彼女へと意識が吸い寄せられる。
(こっちが本当のこの子なんだろうな)
そう思わずにはいられなかった。さっきまでの塞ぎ込んでいた彼女より明らかに今の方が自然体だ。
本来なら学校で日々たくさん友だちとお喋りをしていたい年頃だろう。そんな子が長く誰とも話さず過ごしていたのか…。
そう思えば、一刻も早く彼女から不安を取り除いてあげたかった。それにはすぐにでもハズキとやらに会わないと…。
「ねぇねぇ、カイトさんってワンちゃん好きですか?」
「…んっ?あぁ、犬か。割と好きかな」
「わぁっ!じゃあじゃあ、今度コロを見に来てくださいよっ!」
いつ見に行くんだ?という冷静な自己分析を飲み込んで曖昧に頷くと、アカリは心底嬉しそうに笑った。こちらを向きながら歩いていたアカリはいつしか迷宮区の外に出ていた。アカリに続いて俺も外に出る。夕闇が迫っている頃だけに、外に出た途端俺の視界は真っ赤に染まった。
その色がやけに目の前の少女にマッチしていて思わず微笑みそうになった。だが、そうも行かなかった。
「ゥゥウオオォォー!」
奇妙な叫び声を上げながら、入口すぐの茂みから男が飛び出してきた。驚いたことに、男は武器を構えて俺に突進して来る。突然のことに体が一瞬強張った。
だが、それから動作に入っても十分だった。男の疾走スピードが遅すぎる。相手が間合いに入る前に自分の得物を抜いた俺は、襲い来るソイツの斧を受け止めようとした。冷静に考えれば回避がベストであるが、残念ながらそこまでは頭が回らなかった。
「ぼぉくのアカリちゃんだぞぅー!!」
「うっ…!?」
受けた剣が大きく軋んだ。足がズズッと轍を残して後ずさる。明らかにパワーが違う。
近くで荒い鼻息をさせながら斧を強引に押し込んで来る男の顔を見た俺は、強く記憶がくすぐられるのを感じた。
見間違えるはずもない。こいつは一層で俺にアカリのことを聞いて、去り際に突き飛ばしてくれた奴だ。
「そうか…お前が、ハズキなのか」
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