第三章
小さな教室で彼の心は巻き戻る。
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、あなたが変わらないと気が済まない人だっているはずだわ」
「いやいやいやいやいやらしい奴め。それこそ在るわけがないよ、絶対にありえない。だって今俺、君の目の前にいるけど気づいてないもの。……ああ、もう少しでその桃色の唇に俺の、モノガッ……!」
俺が息を切らし、悶えながら言うと雪ノ下はびゅっ、と海老のように後ろに飛び退く。……ちなみに今の『びゅっ』で勘違いした奴は今日から変態を名乗ってもいいぞ。
雪ノ下はハァハァ、と息を切らすと間髪入れずに怒鳴り声をあげる。
「貞操の危機っ……、この変態っ! あなたは世の為、人の為に人知れず死ぬべきよ!」
と、怒鳴り散らす彼女は俺の胸板にちょこん、と小さな背中を預けていた。……ヤバイよ、すっげぇ良い匂いがする。最高にこのままでどうだっていい、超満足。長くて艶々した黒髪は早朝の風に吹かれ、さらさらと俺の頬に触れている。雪ノ下は俺より背は小さくて、ちょうど頭が俺の胸辺りにあり、つまりは普段の態度とのギャップがすごい。すごい良い、匂い。
ごめん、○鷹。俺も今日からハーレム作っちゃう!?
……と、まあ冗談は由比ヶ浜さんの胸の谷間にでも挟んで置いといて、雪ノ下を俺から引き離さなければ。正直むせ返ってしまうほど、甘い香りがする。早くしないとマジで意識が天に召されて召し上がってしまう。
俺は雪ノ下の肩を優しく掴み、その感触をへぇ、と知りながら彼女を押し退ける。
「やっぱり見えてないじゃないか。俺はずっと君の後ろにいたんだから、君の唇なんか見えてないし見てないよ。……あと、誰も見えてないのに喋るなんて怖くなかった? 怖がらせてしまったら、その顔を写真に撮っておかないと……」
「……こう言うことが起こらないためにもあなたを知る、いえ……、知覚する必要があるのよ」
雪ノ下はぐたり、と項垂れ、邪魔な蝿を追っ払うように小さく首を振った。
その遠心力で長い髪がさわさわと揺れる。――これが俺の頬を撫でていたと思うと、なんか感激。
俺は心の中でカメラのシャッタースイッチを連打した。もう、実際カメラを持ってたら○橋名人もびっくりする、えげつない速度で……。
「こう言うことはどんどん起こってくれちゃっても構わないんだけどなぁ」
「……はぁ、もう死んでほしいわ。頼むから……」
雪ノ下が懇願するなんて実は珍しいことなのではなかろうか。
……いやすっごい下向きな理由だけどさ。もはやひた向きと言っていいほど死を望まれてるんですが……。
「じゃあせめて死に場所くらいは選ばせてくれよ、俺も一人の男なんだから、自分の没する場所くらいは決めさせてくれ。何て言うんだろう。こう、『いい人生だった……』って最期に言い残せるようなさ」
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