第三十六話 坂道
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。それどころか、真犯人を知っていたのならもっと早く教えて欲しかったと恨みがましく言ってくる始末だ。俺なら先にリメス男爵家の相続の件で謝るところだ、あれが無ければあの無残な事件は起きなかった……。
それに比べればマリーンドルフ伯はなかなかのものだ、あの黒真珠の間の一件の後、ルーゲ伯爵、ヴェストパーレ男爵夫人と共に正式に謝罪してきた。俺も素直に気にする事はないと言う事が出来た。彼らとの関係は良好なものになるだろう。
「カストロプ公爵家の財産だがどの程度になるのだ?」
「まだ整理が始まったばかりですのではっきりした事は分からないようですが……」
「?」
「ゲルラッハ財務尚書の話では四千億帝国マルクを下る事はないそうです」
俺の言葉に大公夫妻が顔を見合わせた、エリザベートは眼を丸くしている。
「随分と貯め込んだものだな、四千億か……」
「平民達が不満を持つ筈ですわね」
大公夫妻が溜息交じりの声を出した。帝国最高の権門であるブラウンシュバイク公爵家の人間が呆れている。十五年近く財務尚書の地位に有ったとはいえ異常と言って良い。仕事よりも蓄財に精を出していたのだろう。
「少しは平民達の不満も解消されたかな」
「改革がどう進むかでしょう。カストロプ公は氷山の一角でしか有りません。他にも似た様な不正を行っている貴族は沢山います。彼らが素直に改革に従ってくれれば良いのですがそうでなければ平民達の不満は爆発しますよ」
大公が唸り声を上げた。
希望が有る限り、人間は自暴自棄にはならない。なっても周囲の人間が止めてくれるだろうし同調する人間も少ないだろう。騒乱は小規模な物で済むはずだ。だから帝国政府は平民達に絶望では無く希望を持たせなければならない。平民達に政府は自分達の事を考えてくれていると思わせなければならないのだ。例えその本心が革命などで殺されたくないという利己的な物であったとしても……。
「不満が爆発すれば、そして収拾がつかなくなれば、その矛先は必ずブラウンシュバイク公である私に向かってきます。平民でありながらブラウンシュバイク公爵家の養子になり自分だけが良い思いをしていると……。他の貴族達よりも遥かに憎まれるでしょうね。エリザベートもその憎悪に飲み込まれる事になる」
「縁起でもない事を言うな」
不機嫌そうな表情だ、だが否定はしなかった。大公夫人も反論はしない。そしてエリザベートは怯えた表情で俺を見ている。哀れだと思った、ブラウンシュバイク公爵家の未来は決して明るいとは言えない……。義父が暗い空気を打ち払うかのように咳ばらいをした。
「それを防ぐためにも改革をせねばならん。次は裁判だったな」
「はい、平民達に控訴権を与える事、それと帝国政府の同意無しに帝国臣民を死刑にする事を禁じます。今司法省で準備を整えてい
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