第三十六話 坂道
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ずだ」
「……そうか」
「時間は十分に有る、良く考えるのだな」
「……」
帰り際にナッツをシェーンコップに渡した。“クッキーか?”と訊いて来たので“ナッツだ”と答えるとふてぶてしい笑顔で“酒が欲しいな”と言ってきた。いずれ飲めるようになるさ、公の部下になればな。
帝国暦487年 9月 10日 オーディン ブラウンシュバイク公爵邸 エーリッヒ・フォン・ブラウンシュバイク
「どうかな、状況は」
「まあこれまでの所、露骨な動きをする貴族はいないようです。フェザーンも表面上では大人しくしています」
「そうか」
ブラウンシュバイク大公が頷きながらワインを口に運んでいる。
食事が終わり皆好みの飲み物を持ってリビングに移動した。大公と大公夫人はワイン、俺はジンジャーエール、エリザベートはアップルサイダーだ。不思議なのはこの家ではエリザベートの前でもごく普通に政治の話が出る事だな。まあ彼女に訊くと十二歳になってからそうなったらしい。但し、外で話すのは厳禁だそうだ。
「マクシミリアン・フォン・カストロプが部下の手によって殺されました。下手に反乱を起こせば同じ運命になる、貴族達はそう思っているようです」
「ふむ、マクシミリアンもなかなか役に立ってくれたな」
「ええ」
義父が満足そうに笑みを浮かべている。義母も同様だ、怖い夫婦だな。
マクシミリアンの殺害は随分と酷いものだったらしい。遺体を確認したクレメンツからの報告では体中に刺傷が有ったそうだ。多分嬲り殺しに近かったのだろうと言っていたが俺もそう思う。日頃の恨みを存分にはらしたのだろう……。考えてみれば貴族とは酷く脆いものだと思わざるを得ない。彼らの特権は帝国が保障したものだ。平民達は貴族の後ろに帝国を見てひれ伏している。所詮は虎の威を借る狐なのだが貴族達はそうは思わない、自分が何をしても許される絶対の存在だと勘違いしてしまう。
しかし帝国の保障が無くなればどうなるか……。マクシミリアン・フォン・カストロプがそれを教えてくれる。あっという間に平民達に命を奪われてしまうのだ。おそらくマクシミリアンは自分が何故殺されるのか、死を迎える瞬間まで理解できなかっただろう。自分が虎では無く狐なのだという事を理解していれば帝国政府に抵抗などしない、大人しく降伏して命の保障を請うたはずだ。
「最近良く来るようだな」
「……ヴァルデック、コルヴィッツ、ハイルマンですか?」
俺が問い掛けると義父が頷いた。
「誤解が解けたと喜んでいます。しばしば来るのは私との関係が良好だと他の貴族に見せつけるためでしょう」
俺に殺される心配が無くなったとでも思って喜んでいるのだろう、お目出度い奴らだ。どうしてリメス男爵が爵位を返上しようとしたか、もう忘れたらしい
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