第三幕その七
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かな」
「そうだよ」
そしてここで。誰かの声を聞いた。
「そうだよ。あの人はビストロウシカさんの娘さんだよ」
「!?まさか」
「心に話し掛けてるから」
だからわかるというのだった。相手は。
「お爺さんの心にね」
「わしもお爺さんか」
管理人は今の言葉についつい笑ったのだった。
「もうな」
「そうだよ。お爺さんだよ」
そうだというのだ。言いながら彼の足元に一匹の青い蛙が来た。そのうえで彼に対して言ってきたのである。
「お爺さんじゃない、もう」
「そうじゃな。わしもそんな歳じゃな」
言われて笑顔で受け入れるのだった。
「もうな」
「それでお爺さん」
蛙はさらに彼に言ってきた。
「僕にもお爺さんがいたんだよ」
「御前さんにもか」
「そうだよ。お爺さんが言ってたんだ」
管理人をその黒い二つの目で見上げながら心に語り掛け続けている。
「昔ここであんたの鼻の上に落ちたってね」
「ああ、あの時か」
言われてその時のことを思い出したのだった。
「あの時のことか」
「思い出してくれたかな」
「うん、思い出したよ」
管理人はまさにその通りだと応える。
「あの時の蛙が御前さんのか」
「お爺さんだよ。お爺さんはね」
「うん、それで」
「いつも言っていたよ」
こう彼に話すのだった。
「お爺さんの鼻の上に落ちたその時をね」
「そうか。その時をか」
話を聞いてそこに深い巡り合わせと時の移ろいを感じるのだった。その彼がその中で見たものは蛙の言葉だけではなかった。また戻って来てあの時と同じ様に蛙にちょっかいをかけて彼を自分の鼻の上にやってくれた狐もだった。森の中のその不思議な輪廻を見たのであった。
利口な女狐の話 完
2009・12・9
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