木曾ノ章
その5
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果としては無事だったな。途中で何度か轟沈するかと思ったが」
老整備士は顎髭を手でなぞると、真剣な面持ちをした。
「成程な、噂に聞いたとおりだ。あんたの装備を見て荒いって言っただろう? あんたの戦い方もだ、嬢ちゃんよ。沈んじゃ意味はないんだ。沈んだらな」
一瞬、思考が停止した。その言葉は、この港に来てから幾度か聞いている。ここで、また同じことを言われるとは思っていなかった。
「どういう意味だ? 沈むことは避けるべきだが、意味が無いなんて」
今まで、幾度か思っていた質問を投げかける。この老整備士は、信用が置けた。
「提督から、何も聞いていないのか? 去年のことも?」
「去年のこと?」
「ああ、あれは」
「木曾」
老整備士の言葉を遮るように、背後で響が私の名を呼んだ。
「盗み聞きか響」
何か話を聞きだせるかと思った矢先に止められたせいで、少し苛ついた。
「違う。ちょっと用事があって、探してた」
はっと我に返る。私は、苛立ちを仲間に押し付けたのか。
「ちょっと言い過ぎた。体調が優れていなくてな。すまない響」
「いいよ。昨日結構飲んだって不知火も言ってたし、二日酔いかもしれないね。話が終わったら休んだほうがいいよ」
「ああ、そうしよう。それで、用事ってなんだ?」
「鳳翔さんが、木曾と話をしたいって」
「鳳翔さんが?」
「へぇ」
少し、驚いた。鳳翔さんと私の接点は多くない。提督の部屋に赴いた際に見る限りだ。会話自体は更に少なく、片手の指で数えられるほどだけだろう。
驚いたのは老整備士も同じようだった。今は先ほどと同じように髭を手でなぞっている。
「暇な時間を教えてくれれば、鳳翔さんに言っておくよ」
「なら、おっちゃんと話し終わったらすぐでも構わないぞ?」
「儂から語ることもなくなってしまった。鳳翔の嬢ちゃんが代わりに答えてくれるさ」
そう言うと、老整備士は立ち上がって奥に歩きはじめた。
「お、おいおっちゃん!」
「ああ、お前の壊れた装備は新しいの見繕ってあるから、出撃決まったら言いに来いよー」
彼はそのまま振り返らず、奥へ消えていった。
「おっちゃんには、気を使わせちゃったかな」
「俺には全く話がわからないんだがな」
「ごめんね木曾。それと、明日の夜時間空いてる?」
「明日の夜? 休暇が続く限りは暇だが、なんで明日なんだ?」
「木曾、調子が悪いって自分で言った。今日は部屋でよく休んで。急ぎのようでもないから。鳳翔さんは明日ならば、夜が都合がいい」
「そうか、分かった。それじゃあな」
響に別れを告げて、工廠を後にした。
翌日の夜、私は鳳翔さんの自室の前に立っていた。鳳翔さんの自室がある場所は、私の使っている宿舎とは違った。と言っても、同じ敷地の直ぐ隣で、通路を使え
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