第5章 契約
第64話 勝利もたらす光輝
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命の源が、血風と化して後方へと散じて行く。
そう。俺と彼女の後ろに広がるのはブレストの街。ここからは一歩も下がる事は出来ない。
俺と共に有る湖の乙女の精神は穏やかな湖面の如し。今まさに、すべてを呑み込む、高さ三十メートルにも及ぶ水の壁を薙ぎ払えるだけの霊気を制御しているとは思えない、非常に落ち着いた状態。
「勝利をもたらせ」
自然と、俺の口から紡ぎ出される言葉。
その最中も収束し続ける霊気が、丹田から螺旋を描きつつ駆け上がり、頂点へと抜ける力と琵琶骨から、右腕。そして、突如俺の右手内に現れた神刀を蒼銀色の光輝へと変える。
それは正に光輝。その光輝は、かつて魔槍にて牛角の邪神を屠った時のそれを軽く凌駕しているかのように、俺には感じられた。
そう。すべての小さき精霊一人一人の動きまで鮮明に理解出来、俺と彼女。湖の乙女の精神が完全に同期している事が理解出来たのだ。
「隔てられぬ光輝!」
我知らず紡がれるは聖句。彼女との誓約により解除された古の能力。
左脚に乗りし体重を、右脚へと移す正にその瞬間!
無造作に振り抜かれる蒼銀光。
左やや下方から右肩の高さまで振り抜かれた神刀。其処より発生した眩いばかりの蒼銀の光輝と、街を呑み込み、そして破壊し尽くす巨大な津波の激突!
片や、迫り来る巨大な黒き水の壁。
そして、それを迎え撃つは、伝承上、鞘から抜かれると必ずや勝利をもたらせると語り継がれている光の剣が放つ光輝!
その瞬間、すべての音が消えた。
そう。拮抗する霊圧だけが凝縮され、巨大な黒い壁を押し止める光輝の帯だけが其処に存在して……。
………………。
…………いや、違う。その壁の向こう側。僅かに覗くその内部に何か、黒い巨大な何モノかが存在している事が感じられる。
そして、僅かな一瞬。完全に振り抜かれた右腕の勢いのままに半回転しようとする俺の黒紅の瞳と、その巨大な黒の壁の向こう側から覗く真紅の瞳が……。
しかし!
そう、しかし! それが永劫に続くかと思われた光輝と、黒き水の壁の拮抗の最後の場面であったのだ。
巨大な黒の壁に走る一閃の蒼銀の断線。
その断線に斬り裂かれ、壁から海水に戻り、其処から更に霧、そして分子へと散って行く水たち。
其処に巨大な黒き水の壁が存在していた痕跡さえ残す事なく――――――――。
そして、勢いのままに半回転した俺の背中から眩いばかりの光輝が放たれ、宙に浮かぶ俺と、俺に抱えられた彼女の身体を、一瞬だけ影絵芝居の主人公と為し……。
そして次の瞬間、完全に光の世界に取り込んで仕舞っていた。
数瞬の後……。
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