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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第64話 勝利もたらす光輝
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「ここの倉庫に納められている火石や風石すべての精霊力が暴走を開始すれば、このブレストと言う街が地図の上から消える」

 ……と剣呑極まりない台詞を、普段通りの表情及び口調で告げて来た。
 成るほど。但し、それならば、これから先の戦いに土地神やノームの直接的な援護は期待出来ない、と言う事にも成りますか。



 だ、だ、だだ、だぁ、だぁごん! だごん!



 刹那、再び、世界の在り様が変わった。

 少しずつ吹き付けて来て居た神気と瘴気を孕んだ異界よりの風が、その瞬間に、より強烈なそれと成り吹き荒んだのだ。そして、心を簡単に砕きかねない凶悪な威圧感となって、周囲に邪悪な気を撒き散らせて行く……。
 これは紛うこと無き水妖の神気。いや、何処からか聞こえて来る、この異世界の存在を讃え、呼び出そうとするかのようなその歌声は……。

 俺の顔を見つめた湖の乙女が、僅かに首肯いた。
 これは、俺が何かを話し掛ける前に、俺たちの次の行動が理解出来たのでしょう。

「すまんな」

 小さく謝罪の言葉を告げた後、彼女を抱き寄せる俺。
 但し、その謝罪の言葉は彼女を抱き寄せる際の挨拶と言うだけではなく、俺に付き合わせた事に因って、これから起こるで有ろう、非常に危険な戦いに巻き込んで仕舞った事に対する謝罪。

 しかし……。
 しかし、小さく首を左右に振った後に、俺の腕の中に納まる湖の乙女。
 そして、

「あなたと過ごした時間は、わたしに取って一番幸せだった時間」

 直接、顔を見つめて居られないような台詞を口にする湖の乙女。
 但し、それは俺ではない誰か。彼女が、其処まで言ってくれているのは、今の俺ではない、かつて、俺であった誰かの事。
 これではまるで、俺は親の財産を食い潰して行く、馬鹿息子のような……。

 そんな、現状ではあまり、意味のない。更に、少し後ろ向きの思考に囚われようとした俺に対して、

「そのあなたが、約束通り、再び、わたしを見つけてくれた。それだけで、わたしは……」

 それまでの彼女と比べても、本当に小さな。本当に小さな声でそう独り言のように呟いた後、

【幸せを感じて居る】

 ……と、【告げて】来たのでした。


☆★☆★☆


 有視界の限界……宙空に浮かぶ一点にまで転移してきた瞬間、俺の全身を駆け回るかのような悪寒を感じる。
 そう。それは、全身の体毛と言う体毛すべてが総毛立ち、皮膚の内側で何か得体の知れない虫の如きモノが這いずり回るようなおぞましい感覚。

 その瞬間、右腕と額から鮮血が迸る。
 但し、これは返りの風(かやりのかぜ)。先ほど感じたおぞましい感覚とは別の物。
 返りの風と言うのは、剪紙鬼兵や飛霊などが負った被害を、俺
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