第5章 契約
第64話 勝利もたらす光輝
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。
いや、それだけでは無かった。
その鎮魂の歌声が、やがてひとつ。遙か上空に滞空する俺と彼女の元以外の地点からでも響き始めたのだ。
それは、本来俺たちがいないはずの街の北の方角から。
そして、またひとつ、違う場所から響き始める鎮魂の歌声。
その歌声が響き始めるに従って、操られし人々の統一された動きに僅かながらの齟齬が発生する。但し、それは本当に僅かな綻び。
しかし、今まで完全なる同期の元、統一された意志に従って一糸乱れぬ動きを繰り返して来た軍隊に等しい暴徒としては、正に致命的な齟齬で有った。
ゆっくりと大地に降り積もるだけで有ったふたりの霊気が、共鳴し、それが更に、別の触媒と共鳴する事に因って、更なる巨大な霊気へと増幅されて行く。
これは昼の間に配置した呪物を触媒として共鳴させて、更にこちらの霊力を増幅する為に土地神の加護や龍穴から溢れる霊気までも利用した、このブレストの地だからこそ行使出来る俺の最大の術式。
そして、その効果は劇的。
その霊気がひとつ共鳴する瞬間に更に増幅され、大地に蔓延っている異世界の歌声を徐々に凌駕して行ったのだ。
そう。徐々に、まるで潮が引いて行くかのような勢いで力を失って行く異世界の歌声。
そして、逆に力を増して行く湖の乙女と、俺が奏でる荒ぶる魂を揺さぶる鎮魂の歌。
上空を見上げたまま、固まりつつ有る暴徒たち。
その瞳からは、徐々に妖しげな光は失われ、口々から発生していた異世界の歌声は消え去っている。
そして、その代わりに……。
動きを止めた海軍兵らしき男の瞳から流れ出るのは一滴の涙。
見上げる若い娘の喉の奥から発するのは、異世界の歌声ではなく魂の慟哭。
そうだ。彼らは皆……哭いて居た。
自らの意に沿わぬ支配に抗い、涙を流し、そして、声に成らない叫びのような声を上げ始める何者かに操られた人々。
湖の乙女の儚げな歌声に重なる魂の慟哭。それは、一人、また一人と人々の口から口。瞳から瞳へと広がって行き……。
美しくも、哀しい輪唱のように、ブレストの街を満たして行ったのでした。
☆★☆★☆
哀しい輪唱が広がって行き、そして、一人、また一人と力を失い、倒れて行く暴徒……いや、操られた人たち。
これで今回のここでの事件は終わり。後は、この倒れた人々を安全な場所に移動させ――。
ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふぐなぐる ふたぐん
――意識が回復すれば、すべては終わる。そう考え始めた刹那、何処かから聞こえて来る召喚呪文と港の方向から響く爆発音。
そして、何処かから聞こえて来る、呻くような耳障りな声と人間の叫び声。
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