第5章 契約
第64話 勝利もたらす光輝
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《こころ》を安定させる、彼女の麗貌と、落ち着いた精神の在り様。
俺も、同じように、小さく首肯いた後……。
霧に包まれた世界に、ゆっくりと心に染み入るメロディが広がって行く。これは、鎮魂の笛の音。
その哀愁を帯びたメロディが、しんしんと降る雪の如き霊力と成って、暴徒に埋め尽くされた大地へと降り注いで行く。
そして、次の瞬間。その曲調に相応しい儚い歌声が重なる。
淡々と……。
そう。新たに龍の巫女と成った少女の歌声が、大地へと降り積もる俺の霊力に重なり、彼女に相応しい色を着けて行ったのだ。
精神に作用する水の精霊の職能を歌声に乗せながら……。
蕭々と……。
そう。何モノにも穢されていない色の霊気が、大地を覆い尽くす悪しき意識を駆逐して行くのだ。
ゆっくりと。しかし、確実に……。
しかし! そう、しかし!
理性を消失し、操られるままに動き続ける人々の心に直接響かせる事が出来なければ、この術式は完成しない。
そして、魂を揺さぶるのは、こちらの魂が放った真実の言葉だけ。表層を流れ行く、ただ美しいだけの旋律では、何も変える事は出来る訳がない。
但し、逆に言えば俺の奏でる曲が。そして、儚げに歌う湖の乙女の歌声が、人々の魂に直接、届くもので有れば、間違いなく彼らを救う事が出来る。
そう。俺と湖の乙女の作り上げる音楽が、どうしようもなく心を揺さぶる、とても美しく、そして儚い律動と旋律で有ったのならば……。
遙か高所から降り積もるように……。悪しき気に因って塗り替えられた世界の理を、再び塗り替えようとする俺と湖の乙女の霊気。そして、その霊気に抗するは、海より這い上がって来る声に成らない異世界の歌声。
そよ、ともそよごうともしない大気が、濃密な腐臭を帯びて身体に纏わり付き、
悲痛に。引き裂かれるかのように謳い続けられる異世界の歌声。
それは、操られる人々の口から口へと伝わって行き、
霧の白と、雪の白。ふたつの白が反発し、抵抗し、打ち消し合い。
互いに譲ることのない相容れぬ呪が、ぐるぐると呪力の渦を発生させたのだ。
まるで、巨大な竜巻の如く、地に渦巻く呪力の渦。
ゆっくりと流れ行く陰と陽の呪力が生み出す拮抗は、誰にも押し止める事の出来ない力となり、悠揚と螺旋を描いて行く。
そう。その瞬間、霧と雪がまるで太極に等しい図形を大地に描き出していたのだ。
湖の乙女が歌う鎮魂の歌が、霧に包まれる世界に響き続ける。
それは、操られし人々の荒ぶる魂を鎮め、無秩序に存在していた霧の魔力に、明確な方向性と言う物をもたらせて行く。
いや……
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