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東方小噺
目指せ魔法使いと死神娘
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え何往復も容易。
 それでもまた、対岸には着かない。
 見据えた先、小町が楽しげに私を見ている。既に射程圏内だというのに、そこからの距離が縮まらない。
 だから、一層魔力を込め速度を上げる。

 魔力はまだ猶予があるとはいえ、この調子で使い続ければいずれ尽きる。瞬間最大値なら生まれきっての魔法使いである知り合いにも対抗できる自信はある。
 だが流石に持続的な生成量となれば人間である自分はどうしても劣る。それは、自分がパワーにこだわる理由の一つでもある。
 魔力の大量使用で体内に熱が篭もり、暑さで汗が垂れる。それは真っ直ぐに下へと落ち、小さな波紋を生む。
 相変わらず小町は憎たらしげな顔で笑っている。

「おらああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 意思を叫びに変え、ひたすらに前へ。その余裕げな顔を崩してやると、ぶち破ってみせると更に魔力を込める。
 限界など知らない。それを超えなければ道などないと知っている。
 ただひたすらに前へ。指がかかった可能性を引っ掛け、それを全力で後ろへ。自分を前へ。
 汗が玉となり溢れてもなお、止めはしない。止まるまで、止めることはない。
 だが、それでもなお小町は私を見て笑っている。

 否。――哂っている。
 
「……あん?」

 疑問が脳裏を掠める。小町のその顔が、熱くなった頭に僅かに水を被せる。
 何かがおかしい。いや、何かがおかしかった。
 飛ぶ速さはそのままに、私は思考を巡らせる。

 いくらパワーだと言っていても、研究を無駄だとは思っていない。結果がパワーなだけで、その過程には確かに理論もある。幾多の本を読み、盗ん……借りた魔道書を読み明かしてきた頭が、心のどこかで「待て」をする。
 小町の笑は何だ。あれは単に面白くて笑っているのではない。まるで、滑稽な者を見るような目だ。何かに気づかぬまま足掻く愚か者を、馬鹿にする目だ。
 気づけ、気づけ。何だあの目は。

 答えが出ず空回りする頭。魔力の残りもそう多くはない。
 このままでは、飛ぶことすら危うい。
 焦りが増す。流れる汗を乱暴に手で拭い、払う。焦りを吹き飛ばすように、頭を大きく振るう。
 下に落ちたその汗がまたも水面を小さく揺らす。
 波紋が、……





「何で、下に落ちてるんだ」





 冷水を浴びせられたように思考が冷える。
 それは余りにおかしい光景。
 自分は「高速」で「前」に向かって飛んでいるはずだ。
 なのに何故――汗はほぼ真下に落ちているのだ。
 「加速」し続けているはずの、私の下に。

――ここは……

 不意に、小町の言葉が脳裏に浮かぶ。
 浮かび、それが欠片となって脳裏を廻る。欠片は互いに寄り添い合い、
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