間幕:Ir de tapas (軽食屋巡り)
Diolch i'r byd / 世界に感謝を
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*★*☆*★*
「さてと、そろそろ朝の食事も作ろうか?」
「……はい」
朝の仕込が終わった頃、キシリアは料理の手を止めてカリーナを振り返った。
――ツラい。
カリーナは心の中で小さく呟く。
仕事の内容がではない。
叱ってもらえない事がだ。
今日の伊達巻の失敗の後、キシリアは何も言わずに伊達巻を作り直した。
もちろんカリーナが作ったはるか上の出来栄えでだ。
期待されていないのだろうか?
勇者になる前に、今は亡き母からよく言われたものである。
叱られるのは期待されているから。
怒られているうちが華だと。
「今日の朝食は、ターメイヤ、スクマ・ウィキ、デザートは蓮の実の甘納豆ね」
……ざわり。
そのキシリアの台詞と共に、厨房の中が踊りだす。
この厨房において、彼女のはまさに神の言葉。
メニューを告げられた、ただそれだけのことで"エジプト風ソラマメのコロッケ"の材料である大きな豆が宙を舞い、鍋の蓋がひとりでに開いて緑色の客人を迎え入れる。
続いて一瞬でお湯に変わった汲み置きの水が鍋に入り、ソラマメをコトコトと煮込み始めた。
その隣では、いつのまにか蓮の実と砂糖の入った鍋が濛々と白い煙を吐き出している。
――すごい。
カリーナの口から、知らずとそんな言葉が漏れていた。
今までにも、捕獲したシルキーを働かせている貴族の屋敷にお邪魔したことはあるが、ここまでの理力を一人で使いこなす妖精を見たのは初めてである。
少なくとも……理力の細かな制御という点であればキシリアより上の存在をいくつも見てきたが、その強度においては彼女より上の存在を見たことがない。
彼女に匹敵する存在がいるとすれば、それは魔族の頂点たる魔王ぐらいだろうか?
なにせ、彼女は現在進行形で魔王の呪詛からこの店を守りきっているのだから。
そう、実はキシリアはとある事情により都市国家ビェンスノゥの魔王から常に呪いを受けており、その呪いを跳ね除けるために常時多大な理力を行使している。
だが、その様子はあまりにも自然すぎて、カリーナもクリストハルトも言われてもすぐには信じられなかったほどだ。
当然ながら、普通の妖精であればとっくに魔王の呪詛に屈しているはずであるし、出来たとしても平然とした顔で振舞うことは出来ない。
ましてや、その理力の行使の傍らで料理のお湯を沸かすなどもっての他だ。
まぁ、魔王のほうも本腰を入れて呪っているわけではなく、せいぜい嫌がらせ程度の呪詛しか送っていないのだろうが、いずれにせよキシリアが規格外であるのは間違いない。
それに比べて自分は何なんだろう?
幸いにも神の恩寵により火の制御はキシリアにも負けないぐらいだが、
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