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Monster Hunter ―残影の竜騎士―
16 「双牙携えし竜は白き幻に見ゆ」
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み場もないくらいに散乱するファンゴの死体、内臓、血の、赤、赤、赤。
 若いながらもいちハンターとして、こういうのにはなれていたと思っていたのに、それでも思わず食べ物が逆流してきそうなほど濃密な“死”のにおい。
 無傷と思ったナギの身体の隅々にも、細かい傷がたくさんあった。彼の身を染めていた赤は、猪の血だけではなかったのだ。

「ありがとうございます。ナギさん…」
「あんたはこの村の恩人だわ。……ありがとう」
「……はは。なかなか悪くないもんだね。人助けも」

 よっこらと起き上がるナギの手をひっぱり助け上げ、重い2本の太刀を2人で背負って師の負担を減らす。ゆっくりとした足取りで村に向かうナギの表情は、晴れやかだった。村人も、湯治客も、その場に居合わせた皆が彼に感謝し、笑顔をみせ、嬉し涙を流した。あれよあれよという間に胴上げまでされる始末だ。

「俺、血で汚れてるって、みんな、臭くないんですか!?」

 あれ程華麗に空を舞っていたにもかかわらず、男衆から空に送り出されるたび落ちやしないかとひやひやしながらナギは叫んだ。豪快に笑った1人の男がそれに答える。ヴェローナの鍛冶師だ。

「なぁに言ってんだ! あんたは俺たちの村を守ってくれた英雄だ! その着物、むしろ触れたら勝利のご利益があるかもしれねえぞ! がはははは!」

 そう言われると苦笑いするしかなく、ちらりと見やった先にいる2人の弟子も笑顔で彼を見ているものだから、ますます仕方ないかという気持ちになったのだった。
 血の雨が降ったあとの空は冴え冴えしく澄み渡り、心地よい疲労感にふと心が軽くなった。

(俺は、ここを居場所として、良いのかもしれない)

 そう思った。
 ユクモ村の危機は去った。連絡はとなりのヨルデ村に避難していた村人と湯治客にもすぐに伝わり、直に彼らも戻ってきた。皆互いに「よかったな」と肩を叩き合い、再会の喜びを分かち合った。死者はなく、誰の笑顔には一点の曇りもなかった。
 傷にいいからと勧められルイーズとともに湯を浴びてさっぱりしたナギは、使い物にならなくなった着物の始末を頼んで村人から服を借りて、広場で2人と雑談していた。今日はこのまま村に残る予定だ。なにやら宴が催されるらしい。是非白米を食べておかねば。

「またわたしのお父さんも腕を振るいますから、是非食べていってください。昨日ヨロイシダイを大量入荷してたので、多分それで一品豪勢なの作ると思いますよ」
「ヨロイシダイ?」
「鱗は硬いんですけど、身は焼けばふわふわして美味しいんです。脂ものってるし、焼くだけじゃなくて煮出して――」
「それより! ねえナギあんた太刀の二刀流だったの!? そんな人初めて見た!」
「ああ。普段は1本で大抵まかなえるんだけど、今日みたいな時とかはね。本当
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