16 「双牙携えし竜は白き幻に見ゆ」
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きして、地団駄を踏んで待っていた。リーゼは油断なく次ナギの死線をくぐり抜けるファンゴに備えて、身を低くして構えている。
否が応でも目に入るナギの戦舞への疑問を、ルイーズにぶつけた。
「あの、ナギさん戦い方がいつもと違うみたいですけど…」
「にゃふっ」
「…あの、ルイーズさん…?」
「ニャう。……いずれバレることではあったニャ。リーゼ、今の旦那を見て、人間だと思えるかニャ? 怖くニャい?」
「え? そりゃあ――」
血にまみれて黒い髪は赤黒く染まり、着物も元の色が何色かすら分からない。腕には太刀から伝わる血が滴り、流石に荒くなっている呼吸。それでもファンゴを見る蒼の双眸だけは染まることなく、ただ冷徹に光っていた。
「――まあ、ちょっと人間業とは思えない強さですけど、それでもナギさんはわたし達の尊敬する師匠で、何より今彼はこの村の為に命を張って戦ってくれています。怖いだなんて、これっぽっちも思いません! エリザも同じこと言うと思います。いえ、絶対言います。『馬鹿じゃないの?』って」
「……にゃふー……ありがとうニャ」
ぐりぐりと前脚で目元を拭う仕草をすると、小さな呟きを落としてちょうどきたエリザから太刀――ブラッドクロス改を受け取り器用に背中にくくりつけると、ルイーズは戦場に戻っていった。
「……ねえ、エリザ」
「ん?」
エリザは友人の顔を仰ぎ見た。初めて見た複雑な光を湛えたリーゼの整った眉がひょいと上がる。
「……なんでもない」
「は? 何なのよ」
「…ナギさんのこと、尊敬してるよね?」
「馬鹿じゃないの? 当たり前でしょ。じゃなければ誰があんな馬鹿みたいに厳しい修行に付き合ってられるもんですか。あたしは絶対あの背中を超えてみせるから!」
「ふふ、そうだよね!」
「…何笑ってんのよ――て。え…?」
訝しむエリザの追及は途中で途絶えた。その視線をたどった先にあるのは、我が師 ナギ。
「え?」
2人が見たのは、ルイーズが体当たりをするようにナギに太刀を渡す瞬間。
積み上がった仲間の死体を踏み台にし、ファンゴがその図体からは想像できないような跳躍をした。100kgはくだらないだろう重さに重力も味方して、ナギなど潰されたらひとたまりもない。思わず息を飲んだ後方組の前で、だが猪はあっけなくその命を散らした。吹き出す血。回し蹴りで真横に蹴り飛ばされた物言わぬそれは後に続こうと地を離れた仲間の顔面を潰した。
静寂。
牙獣ですら恐れたのか。血糊を払ったナギは額に張り付いた髪を耳にかけると、カクンと首を鳴らした。嫌に響くその音に、本能から一歩後退したファンゴを、ナギは蒼い海の眼で見やる。
彼は、薄く笑っていた。
「来いよ。それくらいじゃあ、俺は、死ねねぇな」
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