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ヴァレンタインから一週間
第21話 真名
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りましたが。
 あの時の彼女は、俺の能力を知って、俺が和室に侵入する事を警戒していた、と言う事ですから。

 そして、その懸念は間違いではないと思いますからね。

 何故ならば、時間凍結技能は、俺でもアガレスの職能を使用すれば可能ですから。
 そして、使用可能ならば、余程複雑な術式を行使していない限り、その術式を解き明かす事も可能ですから。

 少なくとも、凍結された時間の世界(和室)に侵入する事は可能だと思います。

 そのような、大きな不満に彩られた気を発する少女に対して、居住まいを正し、そして、それまでの足を崩した形から、ちゃんと正座の形へと座りなおした後に、

「俺が死ぬ直前。本当に、死に直面したその瞬間に、有希にだけ聞こえるように、オマエの耳元でそっと囁いてやる。それで、勘弁して欲しい」

 ……と、そう伝えた。
 これは、普段の俺の態度からは考えられないような、真面目な態度。

 そう。普通ならば、相手が誰で有ろうとも、絶対に教える事は有りません。
 これは、そう言う事ですから。

 俺を、今度こそ本当の意味で驚いたような瞳で見つめる少女と視線を交わらせながら、そう続けた俺。
 そして、ゆっくりと立ち上がる。

 ただ、有希には知って貰い、そして、そこから先の俺の未来を、オマエさんの好きに使って貰っても良いかも知れない。
 転生が当たり前の事実の俺たち……。俺たち、仙族に取っては、そんな時間でも、おそらくは一睡の夢。
 そして、そんな一睡の夢を、有希。オマエさんと共に見るのなら、それも悪くはない。

 そう、考えながら……。

 俺は、コタツの対面に座る有希の傍らに移動しながら、ゆっくりと、一言一句を区切るように、その少女へと話し掛ける。
 そうして、

「有希が知りたがっている事を知られると言う事は、俺のすべてを支配される。そう言う事に等しい事やからな」

 ……と、彼女の耳元に、そっと、囁くように告げたのでした。

 ………………。
 …………。

「了承した」

 少女が短く、彼女に相応しい答えを返して来た。
 彼女の傍ら。具体的には、彼女の右肩の傍に腰を下ろした俺と正対した後に。

 お互いの膝がふれあい、鼓動や吐息さえ聞こえて来そうな距離と、静かな室内に、再び、沈黙が訪れる。
 そして、

「そのような理由ならば、わたしに教える必要はない」

 ……と、少し哀しそうな口調で、そう続けたのだった。
 いや、口調自体は普段とまったく変わりがない、彼女独特の口調。但し、俺は、気を読む生命体。そして、彼女との間には、霊道と言う目には見えない、しかし、確かな絆と言う物が繋がって居り、その霊道が伝えて来る彼女の感情が、俺には哀しげな雰囲気に感じられ
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