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ヴァレンタインから一週間
第21話 真名
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去り、
 そして、新しい未来(可能性)が生まれ落ちたのでした。


☆★☆★☆


「あなたに聞きたい事が有る」

 室内灯の明度は変わらず。しかし、先ほどまで纏って居た暗い翳に等しい雰囲気を振り払い、少女は俺の瞳を覗き込むように、そう問い掛けて来る。
 そして、俺が、ゆっくりと首肯くのを確認した後、

「あなたは何故、最初にわたしの名前を呼ぶ事を躊躇ったのか知りたい」

 ……と、問い掛けて来たのでした。
 其処に有るのは、単なる好奇心とそれに付随する雑多な気配。少なくとも、それ以外の余計な邪気のような物を感じさせる事はない。
 しかし……。

 ……………………。
 ………………。
 ゆっくりと過ぎて行く時計の秒針。
 そして、まるで俺に答えを強要するかのように見つめるその瞳。

「どうしても聞きたいのか?」

 俺は、念を押すかのように、そう彼女に問い掛ける。
 真っ直ぐに自らの視線を逸らす事もなく、首肯く有希。普段の彼女に比べると、明らかに強い調子で……。

 時計の秒針が、其処から更に一周分の周回を繰り返す間、沈黙と言う名の空白が世界を支配する。
 そして……。

「理由は言えない。その名前が俺に取ってもとても大切な物で、特別な意味を持つ言葉だと言う事しか言えない」

 有希の問いに対する曖昧な答え。その答えに対して、哀しげな気が発せられる。
 そして、それは当然の帰結。もし逆の立場なら、こんな答え方では、俺も納得はしないはずですから。

 彼女の強い視線に気圧されるように、僅かに視線を宙に彷徨わせた後、軽くため息。

 そうして、

「どうしても……。本当に、()()()()()聞きたいのか?」

 俺が更に強く。そして、念を押すように彼女に問い掛ける。
 尚、当然のようにその問いは、彼女に有る程度の覚悟を要求する物となる。

 矢張り、ひとつ首肯く事によって、俺の問い掛けに対する答えと為す有希。
 その首肯きの中には、先ほどよりも強い覚悟を秘めて。

「判った、教えてやる」

 室内灯に照らし出された彼女の整った顔立ちを、変わって仕舞った色違いの瞳に映し、彼女に対してそう告げる俺。
 しかし、更に続けて、

「せやけど、それは今ではない」

 最初の言葉に、彼女にしては珍しく喜びに等しい雰囲気を発した後に、それに続く俺の言葉との落差に対して、今度は明らかに不満と思える気を発した有希。
 彼女が、ここまで明確に不満を示す気を発したのは、俺が眠る場所に関して彼女が異を唱えた時ぐらいですか。

 もっとも、今と成ると、何故彼女が、頑ななまでに彼女が俺を傍に置いて置きたがったのか、その理由が分かるようには成
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