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ヴァレンタインから一週間
第21話 真名
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かし、彼女の心の動きは違った。
 普段通りの平静とは違った色を、その奥深くに秘めて居たのは間違いないように感じられたのだ。

「何を望むのか……」

 俺は、ため息と、そして吐息の丁度中間に分類される息を吐き出しながらそう呟いた。
 そして、更に続けて、

「難しい質問で有り、同時に、簡単な質問でも有るな」

 ……と、矛盾の大きな答えを返した。
 有希は無言で俺を見つめるのみ。しかし、これは当然。何故ならば、この台詞では、未だ彼女の質問に対する答えを返していませんから。

「最初から言って居る通り、俺が有希に求めている物などない」

 そう。本当の意味で、彼女に求めているモノなど、今の俺にはひとつしか存在しない。

「俺に取って、有希が俺の手を取ろうと、取らずに、思念体の元に帰還しようとに関わらず、俺がこれから為す事に変わりはない。
 そして、この世界の行く末に関しても、むしろ有希や、涼宮ハルヒの関係者すべてをこの世界から消滅させて、この世界を本来そうで有った形に戻した方が、後に起きるで有ろう問題が少なくて済む可能性は高い」

 完全な防音設備の整った殺風景な室内に、俺の不吉な色に染まった台詞が響く。
 有希は、その言葉の内容を聞いても何も反応を示す事はなかった。そして、おそらく彼女は、それが正しい判断だと考えて居るはずです。

 しかし、

「但し、今の俺に、その合理的な判断と言うべき選択肢を選ぶ事は出来ない。
 何故なら、俺の求めている物……。望みはたったひとつやから」

 ここまで伝えてから、大きく息を吸い込み、呼吸を安定させ、気を全身に巡らせる。
 彼女の名工の手に因る麗貌を瞳に映し、彼女の呼吸音を耳に宿し、

 彼女の存在そのものを、すべての能力を使って感じながら、自らの思いを口にした。

「有希。オマエさんに消えて欲しくない。たった、ひとつ。それだけやから」

 この世界に流されて来て、最初に出会い、俺の事を最初に信用してくれた人間を、何が有ろうとも絶対に消す訳には行かない。
 確かに、水晶宮を訪れた事に因り、俺の事を覚えて居てくれる相手は増えました。しかし、それでも彼女が俺と縁を結んだ存在だと言う事に変わりは有りませんから。

 そして、俺が縁を結んだ相手を失って尚、平気で居られるほど強い精神力を持って居る訳が有りませんから。

 俺の答えを聞いて、微かに首肯く有希。

 俺は、ゆっくりと彼女の目の前に右手を差し出した。
 その右手を、何かの感情を籠った視線で見つめる有希。そう。この時の彼女の瞳には間違いなく、何らかの感情が籠められていた。

 そして……。

 柔らかく、少し冷たい印象の有る繊手と、温かい俺の手が繋がれた瞬間、彼女の未来の一部が崩れ
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