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男女美醜の反転した世界にて
反転した世界にて8
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が引き金で切れたのか”と問われれば、あのおげちゃ女子が言った、『もやし女』という単語に反応してのことだったと、今は思う。
 もっとも、それがなくともあのまま馴れ馴れしく話しかけられていたら、また違う理由で耐え切れなくなっていたであろうことは、想像に難くないけれど。

「私は、赤沢くんのことが好き」
「あ、ぅ、うん」

 さっきから、不意打ちを連発しすぎだと思う。
 きゅっと、ほんの少しだけ、僕の手を握る力が強まったような気がした。

「あ、赤沢くんも……私のこと、……その」
「うん、す、す、好きらょ]

 どもった。
 鬼のように恥ずかしい。

「――え、えへへ。めっちゃくちゃ嬉しい」
「それはよかった」

 そのお日さまのような笑顔に、何かを疑う余地などない。
 彼女が本気で僕の言葉を喜んでくれていることに、僕もうれしくなる。
 そんな砕けた表情のまま、白上さんは世間話でもするかのように、話を続けた。

「あの三人に色々言われてさ。――その時は、そんなことないって、言い返してやったけど、やっぱりちょっと不安だったのよね」
「……」

 色々言われた、というのが、具体的にどんなことを示すのかは、まあ、言わずもがなというやつなのかもしれない。
 僕にもう少し、人並みの度胸さえあれば、彼女らがなんやかんやと白上さんにちょっかいをかける前に、割り込んで止めることだってできたかもしれないのに。
 

「もしも、もしも、あいつらの言うとおり、『同情で付き合ってる』んだって、赤沢くんに言われたら、って考えたら、えへへ、怖くて怖くて」
「そんなこと、言うわけないよ」
「うん……、えへへ。赤沢くんって、怒るとあんな感じなるんだねぇ〜」
「お、お恥ずかしい……」
「あのときの赤沢くん、超怖かったよ。怒らせたらアカン、って。心の底から思ったわ」
「ううぅう……」 
「――でも、すっごくスカッとした」

 ――本当に晴れやかな顔をして、そんなことをいうものだから。
 僕もまあ、珍しく怒った甲斐があったかなぁ、なんて思ったりなんかして。僕の方こそ、なんであんな風に言っちゃんったんだろうという後悔から、救われた気分になる。

「私のこと好き、って言ってくれたときなんか、正直、もう死んでもいいって思った」
「いやいや、だから、大袈裟だよ。……あ」

 話し込んでいたら、学校から駅までの距離は本当に短い。
 いつの間にか、券売機の前にまでたどり着いてしまった。 

「あ、えと……」
「……」

 ――昨日までは、ここでお別れだった。
 だけど、今日は違う。

「そ、そのさ!」
「う、うん!」

 白上さんも、悟られまいとはしているのだろうけれど、しかし期待を隠しきれていない。

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