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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission9 アリアドネ
(1) トリグラフ港@
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 ざわ、ざわ。

 老若男女でごった返すクランスピア社のエントランスホール。ユティはそこを抜けながら、GHSの電話帳から目当ての番号を呼び出し、発信ボタンを押した。

「もしもし、アースト? ユティ。今すぐペリューン号に精鋭連れて向かって。アルクノアが入り込んでる。マルシア首相を暗殺する気。…………。元アルクノアの人から。それ以上は言えない。………。ごめん、王様に汚れ仕事させる。…………。そう、ローエンが一緒なら心配しない」
 通話を切ってGHSを片し、トリグラフ港めざして踏み出した。




 ミラはトリグラフ港に佇んでいた。両手の指を骨同士がぶつかるほどきつく握りしめ、薄曇りの海を睨みつける。そうでもしなければ平静を保てなかった。

 ――“見事に弾き返された。四大精霊の力でね”――
 ――“ミラ=マクスウェルが、最後の『道標』への壁になっているのだ”――

 クランスピア社の社長室で聞かされた報告が頭の中でリフレインする。気持ち悪い。いっそ頭が割れてしまえばいいのに。

 ――5つ目の「カナンの道標」がある分史世界が探知された。ヴェルから呼び出されたルドガーに付いて、エルとジュードと共にミラも会社に行き、詳細を聞いた。
 目標分史世界に進入できない。その分史と正史の間にマクスウェルがいるからだと彼らは言った。

「ミラ……」
「っ、エル――」
「ナァ〜…」

 追いかけて来てくれたのか。オトナのくせにエルを慰めもせずからかってばかりのミラを。
 不安でいっぱいの翠眼が、痛い。

「何で急に行っちゃったの? ぐあい悪いの?」

 ミラの軽はずみな行動がエルを不安がらせた。そのことはひどく申し訳ない。だがいつものような皮肉を返すだけの気力が今のミラにはなかった。エルとの応酬を楽しんできた日々が、罪深く感じられてならなかった。

 ――“戻らぬのか。それとも、戻れぬのか”――

(戻らないわけ、ないじゃない。『マクスウェルのミラ』なら意地でも戻って来るわよ。昔の私だってきっとそうしたから。戻れないのなら、きっと)

 慌ただしい足音が二人分近づいてくる。ミラは俯けていた顔を上げた。案の定、ルドガーとジュードだった。今日のミラは他人に追いかけさせてばかりだ。
 ルドガーとジュードは足を停めると、弾んだ息をそのままにミラを見つめた。

「ルドガー、ミラがなんか変なんだよ」
「ナァ〜」
「ミラさん……」
「気付いてるんでしょ」

 彼らから最後通牒を突きつけられたくなくて、ジュードの言葉を遮った。

「何のことだ?」

(本気で言ってるなら鈍いし、とぼけてるなら残酷ね。どちらでも私の口から言わせるんだもの)

「マクスウェル復活の障害は……私よ」

 ルドガーとジ
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