第六章 『邂逅』
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「――――!」
一体のブラッドゴートが、獣の様な声をあげた。それを皮切りに他の悪魔達が、怒声とも、歓声とも、奇声とも聞こえる雄叫びを次々に上げていく。伝播していくその声は空気を震わせ、悪魔達をさらに興奮させていく。まごうことなき悪魔達の鬨の声であり、魔界の侵攻の始まりを伝える、ムンドゥスからの福音である。
「――闇を従え吹雪け常夜の氷雪』」
詠唱を終えたエヴァンジェリンの掌に、魔力が黒く渦巻いている。麻帆良学園でも行使した魔法『闇の吹雪』だ。それを無数の悪魔達が押し寄せる、魔界へと続いている大穴に向かって放つ。
単発の闇の吹雪では殲滅は到底不可能な数だ。だが、悪魔達が出てこられるのは、エヴァンジェリンが狙いを定めた大穴に限られている。そのため魔法世界へ殺到する悪魔達は、直線的な破壊力に優れる闇の吹雪に蹂躪され、かなりの数が原形すら留めずにバラバラになった。
しかし数の利はそうそう崩れることはない。悪魔の勢いは止まることはなく、闇の吹雪が収まるやいなや空間を埋め尽くすように溢れ出してくる。そしてついに魔法世界へ、悪魔達が足を踏み入れた。
瞬く間もなく前線にいた悪魔達の体に赤い筋が走った。そして数瞬の後、鮮血が噴き出す。気がついた悪魔はいなかった。なぜならあまりにも速く、あまりにも鋭かったからだ。
そう、彼らは斬られたのだ。幾度と無く魔を切り伏せてきた、往年の退魔の剣士によって。
悪魔の穢れた血が舞う中、詠春はさらに刃を振った。退魔の剣は容赦なく悪魔を斬り捨てていく。
その詠春の背後に白いモノが現れた。それは美しい純白の翼に、光り輝く剣を持ち、神々しくもある光に包まれていた。誰もがそれを見た時、天使だと言うだろう。
詠春が気がついた時には、それは既に詠春へと囁きかけていた。その様相からして神からの言葉だろうか? いや、この悪魔――フォールンが紡ぐ言葉は甘言だ。人を堕落させる囁きである。悪魔の囁き、甘言は非常に強力だ。耳を傾けたら最後、魔道へ落ちてゆく。
「フッ――!」
詠春は直ぐに背後のフォールンへ野太刀を振るった。研ぎ澄まされた刃がフォールンの純白の翼へ迫る。白刃は羽を切り裂き、胴体を覆っていた翼が散った。そこには、醜悪な悪魔の顔があった。
人の前に現れる悪魔の中には、絶世の美男美女に扮するものがいる。そうすることで人の警戒心を解き、堕落させやすくするのである。フォールンの天使のような美しい翼もまた、人の警戒心を解くためのものであり、同時に悪魔の本性を隠す一種の鎧のようなものだ。
悪魔の本性を暴かれたフォールンは、手に持つ剣を激しく振るい、詠春へ向かっていく。もはや先程まで見えていた天使のような神々しい姿はない。
フォールンが大きく振りかぶって詠春を間合いに捉えた途端――フォールンの身
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