GGO編
百十八話 少女と少年の選択
[6/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ら、携帯にメールが来てたんだ」
苦笑気味にそんな事を言った彼に、詩乃は吹きだす。
「そりゃ、こんな寒い中夜なのに外に居る。なんて言ったら、親御さん心配するよね、でもせめてお茶の一杯くらい飲んで行ったら?」
「あはは……大丈夫大丈夫。身体も少し冷えてた方が体感温度そんなに寒くならないし、走って帰るよ」
照れたように笑うその表情は、何となく何処か垢ぬけていて、詩乃は素直にそれを好意的に受け止めた。
「そう?ならまぁ、良いけど」
「うん。ごめんせっかくお湯湧かしてもらったのに……あ、ケーキは二つとも食べちゃって良いからさ」
「……それ、もしかして私が太るって分かってて言ってる?」
「あ、ご、ごめん……!!」
予想以上に慌てた新川に、詩乃はまたしても小さく吹きだす。
「良いよ別に。二日に分けて食べるから。あ、もしかして消費期限今日?」
「あー、えっと……うん」
「……はぁ」
「申し訳ありません……」
深々と頭を下げた恭二を見ていると、やはり何となく笑ってしまいそうになる詩乃だった。
玄関で靴を履き、外に出ると新川は一度振り返る。
「それじゃ」
「うん。またね」
微笑みながらそう言って、詩乃はドアを閉じようとする。其処に……
「あ、朝田さん!」
「え?」
少し大きめの声が響いて、詩乃は驚きながらドアを閉じる手を止める。真剣な顔をした新川が、ドアの外に立って此方を見ていた。
「その……っ」
しかし……その顔はすぐに、何処か自嘲気味な、何時ものはにかむような苦笑に変わる。
「……やっぱり、何でも無いよ。ごめん。さよなら、朝田さん」
「う、うん。お休み、新川君」
そう言って扉を閉じる。しかし何故だか、扉が閉じるその瞬間に、一瞬だけ、躊躇いを感じた自分が居た。
────
「…………」
つい先程、数時間前の敗北以来、頭の中で、妙に冷静な自分が居た。
これまで固執していた自分を真っ向から否定された影響なのか、その冷静な自分は、此処に至るまでの自分を、ただただ見つめ直し、そうして、自分で自分の事を、客観的に見つめていた。
強さに、自分があこがれる少女に、唯一方的に執着し、そしてあらゆる不都合を何か自分で無い物のせいにしていた、自分を。
「…………」
気が付いてしまえば、彼は決して自分が正しい人間ではないと知っていた。そして同時に、自分がたどった道のりが、引き返すにせよやりなおすにせよ、今となってもうどうしようもなく手遅れであることも、理解できていた。
詩乃のアパートの階段を下った所で、もう一度少しだけ上を見る。
今まで自分が執着し、憧れと言いながら自分がする事の言い訳と目的の為に良いように使ってきた、つい先ほどまで、自分が潰そうとしていた、優しい同級生が暮らすその部
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ