GGO編
百十八話 少女と少年の選択
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果たしたばかりの詩乃の部屋に、にぎやかなノックが響いた。
自室に未だに殺人者の肩割れが残っている事を警戒していた詩乃は、慎重にドアに近づき、サンダルを踏み石代わりにのぞき窓から外を見る。
しかし警戒するまでも無く、それは今から携帯で呼ぼうと思っていた友人の姿だった。
「新川君……?」
ドア越しで一応呼ぶと、すぐに何時もの少し高めな声が遠慮がちに返ってくる。
「あ、う、うん。ごめんこんな時間に……その、少しでも早くお祝いが言いたくて。これ……コンビニので悪いけど、ケーキ、買って来たんだ」
覗いて居たレンズから、今度はケーキの小箱が見えた。
「は、速いね、随分……」
呆れたような、驚いたような声で詩乃は言った。大気空間での待ち時間を合わせても、まだ大会終了からは五分立っていない。
恐らく家から来たのではないだろう。この近くの公園かどこかで、携帯端末で大会を見ていたに違いない。ある意味では、ゲーム内でもAGI型の彼らしいと言えばらしいか。
「ちょっと待ってね。今開けるから」
部屋着なので少々格好はだらしが無いが、まぁ仕方ない。チェーンロックにかけていた手を外して代わりにドアノブを取って扉を開くと、そこにはにかむような笑顔を浮かべた新川恭二が立っていた。
新川はジーンズとジャケットの重装備に身を固めているが、詩乃は外気に触れた手から凄まじい冷気を感じて身を震わせる。
「うわ……凄く寒いね……速く入って入って」
「う、うん。お邪魔します……」
少し首を縮めながら、新川は部屋へと足を踏み入れた。
────
「何処でも適当に座ってて……あ、何か飲む?」
「あ、いや。お構い無く」
「疲れてるからそう言う事言うと本当に何にも出ないよ」
「あははは……じ、じゃあ、適当に……」
恭二が言うと、詩乃は軽く微笑んで台所で何かを準備し始めた。その後ろ姿に向かって、恭二は口を開く。
「大会……お疲れ様。凄かったよ、ホント……やっぱり、凄いや、朝田さん……シノン……」
「……ありがと」
何となくくすぐったさを感じた詩乃は短くそう返すと。しかし少し考え込むような言葉で言った。
「でも、今回の大会って……あ、中継見てたなら気が付いたと思うけど、ちょっと色々変な事が有って……もしかしたら、大会自体無効。って扱いになったりするかもしれない……」
「えっ……?」
「あのね……えっと……」
其処まで言って、詩乃は迷うような表情で少しの間何かを考え込む。しかしやがて、顔を上げて誤魔化すように言った。
「ううん。何でも無い。ちょっと変なプレイヤーが居たってだけ」
そう言って、詩乃は一旦リビングへと戻ってきた。どうやらやかんを火にかけているらしい。
「ふぅ……」
「朝田さん、もしかして疲れてる?」
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