第八章 望郷の小夜曲
第二話 友達
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の思い出が何度も……何度も繰り返していた。
士郎との辛い思い出が甦れば、ぼんやりとしたルイズの顔は悲しみに歪み。
士郎との楽しい思い出が甦れば、笑顔に変わる。
かと思えば、不意に能面のように感情が、表情が消える。
焦点が合わない瞳で虚空を見つめ、ころころと表情が変わるなと思えば、唐突に無表情になる。その様子は、まるで壊れた玩具……明らかに普通ではなかった。
喜怒哀楽の様々な感情と、何の感情も感じさせない能面のような表情が代わる代わる浮かぶのが、何度も繰り返される。ルイズの一日は、そうして過ぎてゆく。
最初は確かにそれだけであった。士郎と出会ってから今までの思い出を、何度も何度も脳裏に繰り返すだけ。
しかし、一日、二日と日々が過ぎてゆく毎に、士郎との思い出が甦るたびに……胸にぽっかりと穴が空いたかのような喪失感が、ただ大きくなるだけだった。
士郎がいないという現実から逃げるため、底なし沼に沈み込むような絶望感から逃れるために、士郎との思い出に逃げ込んでいたが、心に出来た穴の広がりを止めることは出来ず。日毎に大きくなる穴に、ルイズの心は削られていく。何もやる気が起きず、起き上がる気力さえも既にない。最後に何かを口にしたのは、何時だったか? それさえも思い出せないほど、もう朧げであった。絶望に蝕まれたルイズは、ゆっくりと……しかし確実に死に向かっていた……。
このままでは死んでしまう……そのことは、靄がかかったかのような思考であったが、ルイズは理解していた。しかし、だからといって、ルイズにそれに抗おうという意志が起き上がることはなかった。確実に近づいてくる死の気配に、ルイズの心は欠片も恐怖に震えることはなく。逆に、士郎と会えるかもという喜びが生まれるだけであった。死ねば士郎と会える。
絶望に沈み込んでいた心の中に生まれたその希望だけが、ルイズを人間に押し留めていた。死を恐ることがないルイズが、今すぐ死なない理由は、ただ、自殺をする気力さえ生まれないというものであった。だから、ルイズは緩慢に迫る死を、最も士郎を感じていた思い出を何度も思い出しながら待ち続ける。
最も士郎を感じられる思い出。
それは、士郎と触れ合った思い出。
士郎を自身の身体に中に受け入れた思い出。
それを少しでも強く感じるため……少しでも鮮明に思い出せるように……その時に感じた全てをなぞっていく。
身体の外と内に感じた士郎の指先を……唇を…………。
部屋に引きこもってから一週間が経った今では、一日中それをするだけであった。
それを証明するかのように、ぼんやりと虚空を見つめていたルイズの指先が、滑らかな動きでするすると動き出す。
霞がかった脳裏に、士郎との思い出が甦る。
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