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王道を走れば:幻想にて
第四章、幕間:爛れた部屋 その2 ※エロ注意
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額に乗せていた手拭を取ると水桶で洗い直す。

「では起きた事だし、身体の汗を拭こうか。ほら、起き上がれ」
「て、手伝ってもらわなくてもいいのに・・・」
「いいから起きろ。風邪を引くぞ」

 反論を寄せ付けずアリッサは慧卓を起こして、寝間着の上の部分だけ脱がせて肌に浮いた寝汗を拭いていく。慧卓の身体は騎士としては甘さが見えるのだが、しかし若さの割には筋肉質となっている。初めて逢った時を思い起こしてみても随分と印象が違う。自分の立場を自覚して心身を鍛えようとしているのが窺えた。

「・・・前より」「?」
「前より、随分と男らしい身体になったな、ケイタク」
「・・・アリッサさんも綺麗ですよ、凄く」
「世辞はいらん」

 身体を拭き終えたアリッサは寝間着を掛け直させると、再び慧卓を寝台に寝かせた。態勢のため彼の瞳は俄かに上目遣いとなっており、不思議とアリッサはその視線に釘付けとなってしまう。訳もなく彼女の喉元に言葉が出掛ってしまうが、それは無意味な息となって虚空へと消えて行った。
 しかし何を言わんとしてしまったのかは理解していた。無意識のうちに込み上げてきたのだ、例え自制したとしても将来ふとした切欠で口走ってしまうだろう。しかしだからといって人前で聞かれるには恥ずかしい台詞である。アリッサの脳裏に、『二人きりの今こそ言ってしまおう』という考えが過ぎり、それを行動に移したのはその直後の事であった。

「ケイタク」「はい?」
「・・・いや、やっぱりやめる」
「・・・何でですか。気になりますよ」
「だが、これを認めたら自分の心をどう整理したらよいか・・・何より、これが本物の思いなのかも分からないのに、まだ告げるのは性急な感じがーーー」
「うじうじするくらいなら、言っちゃった方が楽になりますよ。・・・騎士が迷いを抱えては駄目ですって」
「・・・分かった。言って、しまうぞ・・・すぅー、はぁ・・・」

 喉にその言葉を構える。意識すればするほど動悸が激しくなると思っていたのに、心は冷静なままだ。まるで乗馬のやり方を教えるかのような至極落ち着いた口調でアリッサは宣告する。その瞬間、彼女の瞼の裏には慧卓と接吻する情景ではなく、王都で待っている淡白な蒼い髪をした少女の姿が映った。

「ケイタク。好きだ」

 騎士と騎士、上司と新人。それらの壁を越えた、男女としての意識から出た言葉であるのは明白であった。慧卓の瞳が一瞬見開かれ、そしてすぐに元の大きさへと戻った。重大な事を言われたにも関わらず動揺を覚えている様子は無く、寧ろ『やっぱりそうか』と言わんばかりに目を窄めていた。どうもアリッサが長らく感じていた胸中の煩いは慧卓には筒抜けだったようだ。
 両者の間に静かな時間が流れた。続きの言葉があるとばかり構えていた慧卓は拍子抜けしたよ
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