第百二十四話 評判その十四
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「あれ程まで高いと」
「ないか」
「殿も醍醐なりを食されたことは」
「殆どない」
信長にしてもそうだった。
「わし一人で美味いものを食っても楽しくはないわ」
「だからですな」
「うむ、酪や醍醐はな」
高い、それ故になのだ。
「皆で食えぬのう」
「民の殆どは牛といえば田畑に使うものです」
若しくは持ち運びだ、それでだというのだ。
「その乳を食うことなぞ」
「それが面白いのじゃ」
「面白いとは」
「フロイスから聞いた話じゃ」
「フロイス殿からですか」
「あの者が言うには南蛮では牛の乳も肉も飲み食するそうじゃ」
話すのはこのことだった。
「葡萄や麦で作った酒もな」
「葡萄や麦での酒!?」
「そんなものもありますか」
「うむ、そう言っておる」
信長は家臣達にこのことも話した。
「南蛮ではそうらしい。そういえばじゃ」
ここでさらに話す信長だった。
「唐の詩に葡萄の美酒とあるな」
「涼州の詩ですな」
小寺が応じる。
「それですな」
「それじゃ、葡萄の美酒夜光の杯とあるな」
「はい」
「夜光の杯はある」
この日本にもだというのだ。
「正倉院にあるな」
「あそこにですな」
「あの中に」
「平城京の頃に入った、所謂ギャマンじゃ」
相当高価な、宝玉よりも貴重なものである。
「それの杯じゃ」
「それが夜光杯ですか」
「あれになりますか」
「うむ、そしてじゃ」
あらためて葡萄の酒の話になる、それはだというのだ。
「葡萄の酒は南蛮のもの、それをこの国でも造れれば面白いのう」
「その酪や醍醐とその酒が」
「それが合うらしい。南蛮ではチーズやバターというものもあるらしい」
信長はフロイス達からこのことも言われている、このことは小寺達にとっては中々理解しにくく聞き慣れない話である。
そしてそれがだというのだ。
「やはり醍醐等と同じく乳から作るのじゃ」
「それを葡萄の酒と共に口にする」
「南蛮ではそうしているのですか」
「まあわしは飲まぬがな」
やはり酒は飲まない信長だった、だから葡萄の酒も興味はあるが飲んでみようとは思わないのだ。
だが肉やその乳についてはこう言うのだ。
「一度皆で食うのもよいな」
「牛の肉をですか」
「それを」
「まあ四本足なら山の鹿や猪と同じじゃ」
信長はこうも考えていた。
「だから特に怯むこともあるまい」
「食するにおいてですか」
「特に」
「そういうことじゃ。伊達に醍醐は出さぬが考えておく」
肉と共にというのだ。
「そして食するとしよう」
「ですか」
「うむ、近いうちにな」
信長は南蛮のことも聞いて頭の中に入れていた、そのうえでまた色々と考えつつ政宗との会合の時を待っていたのである。
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