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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十話 独立混成第十四聯隊と将軍達の憂鬱
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「宮野木や安東とっては自腹で兵員の動員なんて御免だ、というのが本音なのだろうな」

「あるいは守原も、駒城とて本音は戦時体制なんて御免ですよ、これから戦後は戦後で軍制改革に手を付ける必要がありますね」
――戦後があればの話だが。
双方ともに脳裏に過った苦味に満ちた言葉を飲み込む。
「――あぁ、そういえばそちらのお仕事は如何でしょうか?」

「御蔭様で裏方街道をまっしぐらだよ」
 そう言い、くつくつと笑う姿はまさに軍監本部の怪人と評されるに相応しいものである。
「とはいっても、海外を相手にするのはどうも不得手でしてね。どうも同業の者に押されておりまして――本音を言いますと先達である貴方の御父君に叱られないかと思うくらいです」
台詞と並行して堂賀の口許に常に浮かんでいる笑みにも苦味が混じる。

「責めはしないよ。それは導術を厭った祖先の責だ」
 将家達が導術を厭う過去に囚われていたからこそ魔導院の隆盛は必然であった。
「だからこそ、私は闊達な導術利用がいかに厄介なモノか父から聞いている。それはおそらく豊久も同様だろうな――連中にもそれを思い知ってもらはねばならんな。」

「成程成程、確かにそうであってくれなければ、世は不公平にすぎないな。」
 堂賀も猛禽類の如き笑みを浮かべる。
「それでこたびの要件だが――〈帝国〉軍が大量の翼竜を北領に置いた話は聞いているかな?」

「いえ、初耳ですね」
 堂賀准将が顔を歪めた。
「あぁそうか、矢張り――情報課長が止めているのか。」
 今の情報課長は――宮野木の者だったか。
「ならば、私が広めるのも良くないですね」

「私のクビを飛ばしても良いのならば広めていただいても構いませんよ。
その代わり五将家の閥をガタガタにするだけして去る事になるがね」


「それは剣呑だな――首席監察官に防諜室長、随分とネタをため込む事ができたようだな?」

「そうで無ければ此処に居られないのはお互い様だろうな。
――そもそも、服務規程違反をする連中が多過ぎるのが問題だよ」
豊久には元上官として見せられないだろうがこの男も苦労しているのだ。

「まぁ、そちらを追及するつもりは更々ありませんよ。それよりもその龍の件を聞かせてくれませんかね」



「1000騎もの龍士か。」
 資料に目を通すと疲労感が肩にのしかかってきた。
 ――年だな、こんな事で弱るとは情けない。

「直訳するなら竜兵かな。まぁ、どうでもいいことだがね。
対応を練ろうにも何をしてくるのかも分からんからどうしようもない。
ただ、偵察・伝令に使われるだけでも厄介極まりない事だけは確かだ」
 二本目の細巻から立ち登る紫煙を眺めながら情報課参謀が云った。
「それは確かにそうですな、
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