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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十話 独立混成第十四聯隊と将軍達の憂鬱
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の顔には疲労の色が濃い、皇都と司令部の往復を繰り返し、軍務と〈皇国〉としての国防方針を取り纏める為に奔走しているからだろう。

「――軍監本部は来冠を八月以降と見ているようだが、馬堂中佐はもっと早いと考えているようですな」
 元々、早期に戦力化を行える様にしていたが聯隊長は更に戦力化を急がせている。
「五〇一大隊も強引に人を集めている。君の息子――昌紀大佐も何か企んでいるらしいじゃないか。若手が活発に動いて居るのは健全で結構なものだ。面倒事に対する工夫は将校に求められている事の一つだよ」
 時代を担う者達が保胤は微笑を浮かべるがその笑みには憂慮の色が濃い。

「・・・この時期に使える部隊を放逐する今の軍制に問題がある。いくら禁士隊が儀仗部隊としての性格が強いとはいえど、貴重な騎兵だというのに――いずれ正さなければなるまい、御国が御国として在る為にも」
 自責と自嘲の相混ざった声にも、その内容にも益満敦紀少将は何も答える事は出来なかった。


六月十五日 午後第六刻 葦原
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久中佐


「取り敢えず今日も特に問題なし、と。嵐の前とはいえ素晴らしき静かさだな」
 残業続きだったが久しぶりに暗くなる前に一日分の仕事が終わった馬堂聯隊長は大辺の勧めもあり、気分転換にこの駐屯地の町をぶらつく事にしたのだが、中々どうして目移りしてしまう。

「下手に兵達の溜まり場に、となったら無粋に過ぎるだろうし――」
 安手の店も嫌いではないが、兵達が気兼ねなく将校連中へ悪態を叩いているのを邪魔する事は粋ではない。それに安手の店を除外しても有望株はまだまだある。元々観光名所である羽倉湖や大戸山地に接した粟津は、穀倉・鉱山地帯である芳州と皇都を結ぶ〈皇国〉有数の街道に作られた宿場町から発展した街だ。

 更にその粟津も手頃な行楽地として発展し、その中継地として葦原など幾つかの街もそこそこの規模をもつ宿場町となった。
またそれに並行して五将家を中心とした体制が確立され、皇都への侵攻路を抑える為にもこうして駐屯地が周辺に作られると将兵達の需要に応え歓楽街の色を強くしながら更なる発展を続けている――とわりとどうでもいい蘊蓄を思い出していると聞き覚えのある声をかけられた

「お久しぶりです、馬堂大尉――失礼、中佐殿。」
おやおや。

「堂賀閣下の使い走りかな?――村雨中尉。」
 大店の店員風の装いをした二十代後半と云った面構えの男に向き直る。

「あまり階級をつけないで下さいよ。本気で職業妨害になりかねませんぜ」
 振る舞いが軍人らしからぬのも、口調が がらっぱち気味なのも職業柄当然である。
「ん、すまん すまん。ところでさ――晩飯食ったかい?」





 村雨中尉から渡された〈
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