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とあるIFの過去話
三話
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「君は知らなかったのかもしれないが、あの事故の際、君は既に人を殺している」

 そんなこと知らなかった。血が流れ、自分のせいで傷を負った人がいるのは知っていた。目の前で見ていた。だがそれでも、誰かを殺しているだなんて知らなかった

「………馬鹿なこと言ってンじゃねェ。そんなことあるはずがねェ」

ここの科学力は外の十年、二十年は先に進んでいると言われている。それは医療の分野に関しても同じだ。よほどの傷でもない限り、まず死ぬことはないだろう。そのうえ、あの際に用いられた弾丸は暴徒鎮圧用の非殺傷のゴム弾のはずだ。当たったところで骨は折れても、死には至らないだろう
そんな考えが頭の中を巡るが、すでに口から出た言葉に勢いはなく、胸ぐらを掴む手は僅かに震えている
それを見越したのかは定かではないが、男はその疑問に対して答える

「確かに、あの際に用いられたものは非殺傷のものばかりだ。それを受け、倒れたものは骨を折れさえすれど、命に別状はなかった。だが、あの場に現れた学生<能力者>は別だ。彼らが使う力に、そんな制限はない」

その言葉だけで理解した。理解してしまった

「彼らが君に対し恐怖を抱き、自分の身を守ろうと、または君を止めようと放たれた能力は無差別に跳ね返された。そう、地面に倒れ、動けなかった者にもだ。君が自分の能力で、自分の意思で弾いた力は既に人を殺している」

自分の手は、とうの昔に人を殺していることに
元をただせば、厳密にいえば殺したのはその力を放った能力者と言えるかもしれない。だが、その理由を作ったのも、放ちざるを得なくしたのも、放たれた力で殺したのも自分だ。そのことに、違いなどありはしない

「そんな君が今更、劣化品のクローンを殺すことで何をためらう。これから先、誰も殺したくはないのだろう。レベル6<無敵>になりたくはないのか?」

だがその言葉で意識を取り戻す
確かに自分は過去、人を殺したのだろう。だが、だからといってあいつ<ミサカ>を殺す理由にはなるだろうか?
―――いや、なるはずがない
ミサカが自分に殺されるために作られたクローンだとしても。実際に今日、ミサカと話し、店を回った自分は知っている。無表情だとしても、感情が薄くとも、ミサカ自身としての感情を持つ、劣化品などではない人間だということを
そんなあいつを、前に人を殺したことがあるから、自分がこれから先誰も殺さないために死んでくれと思えるわけがない
ああ、そうだ。簡単なことじゃないか。あいつが殺される理由なんかないじゃないか

「―――俺は昔、人を殺しただろうよ。だがな、それがあいつを殺していい理由になンざならねェ。あいつが死んでいい理由になンざならねェンだよ。
もう一度言ってやるよ糞野郎。俺はこんな実験になんざ参加しねェ。
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