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大魔王からは逃げられない
第一話
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だろう。頭を構成していた魔力を霧散させているためケルベロスの頭は一つだ。こうしてみると、本当にただの犬にしか見えない。しかも意外と可愛い。ソフト〇ンクのCMに出演できるのではないだろうか? お父さん犬の息子的なポジションで。


「あら可愛い」


 確かに今のケルベロスはぬいぐるみのような愛嬌がある。ミニケルベロスは大きくジャンプして俺の肩に乗っかった。まったく重くないのですが、質量保存の法則とかどうなっているのだろうか。まあ、それを言ったら俺の変身魔術も大概だけれども。


「ところで、その子に名前は付けないのですか?」


「名前? うーん、ケルベロスだからケロちゃんなんてのはどう?」


「却下です。どことなくカエルを彷彿させます」


「むぅ……ならダーシュなんてのは?」


「ダーシュ、ですか。どこらか出てきた名前なのかは知りませんが、ケロちゃんよりは幾分マシですね。それにしましょう」


「なんで上から目線……」





   †     †     †





 ダンジョンの中は暗闇に支配されており光源は一つもなかった。


「まあ、生まれたばかりだから明かりなんてないよね。〈ライト〉」


 三十センチほどの光球を出現させた俺は足元を照らしながら無音の中を進んだ。壁は土で出来ており、通路の幅は二メートルにも満たない。


 道は一本道。途中で分岐することもなく直線がいつまでも続いていた。


「光……」


 目を細めるシオン。その視線の先には確かに光が射し込んでいた。五百メートルほど暗闇の道を進み、ようやく開けた場所に出る。


 ドーム上の空間は天井から光が溢れている。見上げると所々に水晶のような物体が生えていた。


「魔光石ですね」


「だね。天然物は久しぶりに見たね」


 魔光石というのは鉱石の一種であり、大気中の魔力に反応して発光する特徴を持つ。通常は水晶玉のように加工して特殊な術式を刻むことで電球代わりに使用する。


 ダンジョンにある魔光石は大抵地下深くに眠っているケースが多いため、第一層で目にするのは珍しい。


 採石する必要もないし、幸先が良いな。


「ご主人様」


「ん? おっ、やっぱりあったか!」


 シオンが指差す先には円上に窪んだ壁の中に淡い光を放った指輪が浮かんでいた。迷宮の指輪だ。


 指輪を手に取り右手の中指に嵌める。


【指輪所持者を確認。マスター情報を登録します】


 どこからともなく機械的な女性の声が聞こえてきた。一度は行った過程なので難なく情報を登録する。


【マスターのお名前を登録して下さい】

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