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大魔王からは逃げられない
プロローグ
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は魔術で清潔に保てるため必要な物といったら食料だけだ。目につくものを片っ端から『倉庫』に放り込むと支度はものの十分で終わった。


 ちなみに『倉庫』というのは空間魔術の応用で四次元ポケットのようなものである。中は亜空間で時間の概念がないため鮮度を保ったまま保存することができる。生き物は入れることが出来ないという点がドラ○もんの四次元ポケットとの違いだ。


 支度が終わり自室でシオンを待つことに。あの子は俺の唯一の眷属なのでどこに行っても一緒なのだ。


「ちょっと八雲様! どういうことですかっ!」


 勢いよく扉を開け放って一人の少女がやって来た。


 歳は十六ほど。一六五センチの身長に背中の半ばまであるプラチナブロンドの髪と碧眼をした少女だ。肩を怒らせ、吊り目の眼は俺を鋭く睨んでいる。


「ここを出て行くと聞きました。一体なにを考えているんですか! 貴方は魔王様なんですよ!? 貴方がいないと誰がこのダンジョンを運営するんですか!」


「あー、ちょっとやりたいことが出来てね。新しくダンジョンが生まれたと言うからちょっと、ね。運営に関してはソルにやってもらおうと思ってる。今まで俺が手を出さなくてもちゃんとやっていけていたんだから大丈夫だって」


 軽い感じで言うと、フェリスはさらに眦を吊り上げた。


「大丈夫だって、じゃありません! まったく、貴方は本当に勝手なんですから……」


 幾分、心を落ち着かせたフェリスは上目遣いで俺の顔を見上げた。


「……たまには顔を見せて下さいよ?」


「ああ。一息ついたら必ず会いに行くよ」


「絶対ですからね」


 んっ、と目を摘むり唇を尖らせるフェリス。膝を折り俺たちは互いの唇を重ねた。


 十秒ほどのフレンチキス。目を開けると潤んだ瞳で見上げる彼女の顔があった。俺の腰に抱きつきギュッと強く抱擁したフェリスは天使のような微笑を浮かべた。


「うん、八雲パワー充電完了! なるべく早く来て下さいね!」


 軽快な足取りで退出するフェリスを見届けた俺は、この世界に来た時から身に付けていた中折れ帽子を手に取った。


「さてさて、これからどうなるか楽しみだな……」


 帽子を目深く被り、独り部屋の中でクツクツと嗤った。


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