暁 〜小説投稿サイト〜
大魔王からは逃げられない
プロローグ
[1/4]

[1] 最後 [2]次話


 地下迷宮――別名、ダンジョンと呼ばれるものがこの世界には存在する。地上を支配するのが人間たちだとしたら、もう一つの世界である地下を支配するのは魔の生き物たちだ。そして俺――狭間八雲はそんな魔の頂点に君臨する者の一人である。


 俺が生まれ育った世界とは異なる世界。エルフや亜人、魔物などが闊歩するありふれたファンタジー小説をそのまま絵に描いたような世界に俺は居る。右も左も分からなかったあの頃も今は遠い昔の話だ。


 地下迷宮アリアード、最下層の執務室。二十畳程の広い部屋の中には俺と専属メイドのシオンの姿しかない。


「あー、暇だなぁ」


 この世界に来た時からずっと身に付けていたスーツのネクタイを緩ませ、ボーっと天井を見上げた。彫刻のように隣に控えたシオンは無言のまま。


 シオンは肩まで掛かるコバルトブルーの髪にワインレッドの瞳を持つネフェタリ族の魔人だ。ネフェタリ族の特徴であるダークブルーの肌に俺より十センチ低い一七〇センチの身長をしている。


 常に黒を基調としたメイド服で身を包んでおり、彼女が動く度に程良い大きさの胸がプルンと揺れた。


「暇すぎるー」


 羽ペンをクルクルと回す。こんなものでは暇つぶしにもなりはしない。


「暇だよぉー」


 いい加減煩わしくなってきたのか、形の良い眉を顰めたシオンが鈴のような声で言い放った。


「ご主人様の決済を必要とする書類はまだ残っています。暇なんてありません」


「ええー、もう字を追うのも疲れたよー。というか、もうかれこれ七時間は机と向き合っているんだけど」


 机の上に山積みとなった書類の山を見てため息をつく。気が重いとはまさにこのことだ。


 一向に減らない書類の山にうんざりするが、俺のメイドさんはそんなこと知ったことかとばかりに表情一つ変えず応えた。


「今まで放置してきたツケが回ってきたんです。自業自得です」


「いやまあ、そうなんだけどね。些かこれは多すぎじゃない? フェリスはどうしたのよ。こういうときのフェリスでしょ」


 フェリスというのは主に俺の書類仕事を補佐する者だ。


 この地下迷宮は一つの国のようなものだ。全百層で構成されている迷宮には三十万を越す住民たちを抱えている。当然、迷宮内でのトラブルは発生するし、地上という他国からの侵略も受ける。迷宮の支配者である俺を国王とするなら、フェリスは宰相の立ち位置だろう。


「フェリス様でしたら書類の処理に追われていますが。ご主人様の倍以上の書類に」


(は、反論の余地がない……)


 泣く泣く止めていた手を動かした。


「それにしても、最近の迷宮は平和だねぇ」


[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ