第三幕その十二
[8]前話 [2]次話
第三幕その十二
「こうして」
「私の意識は乱れ知恵も黙ってしまう」
ブリュンヒルテは何かを手を取られ恍惚となっていた。
「けれどそれでも貴方を」
「貴女の知恵は私への愛の輝きとなります」
「私の知恵が」
「ですが私は」
「そうです。どうか」
言葉を続けていく。
「私と共に」
「悲しい暗闇が眼を曇らせ光は消える」
そうなっていくというのである。
「周りが夜になり霧と黄昏の中から激しい不安が吹き荒びます」
「不安が?」
「恐れが迫り膨れ上がります」
その言葉が続く。
「私はです」
それに応えて言ったジークフリートだった。
「夜が閉じた瞼を包みます」
「瞼をなのですね」
「そうです。その束縛から逃れれば暗黒の闇も消え去ります」
彼は言った。
「暗闇から抜け出してです」
「そうして」
「見るのです、太陽が輝くのを」
「わかりました」
それを聞いて頷いたブリュンヒルテだった。
「それでは。ジークフリート」
「はい」
「私の不安を見て下さい」
「貴女の不安をですね」
「私は永遠でしたし今も永遠ですが」
「永遠ですか」
「そうです。貴方の幸せの為にこそ永遠です」
そうだというのだった。
「甘い憧れの喜びの中でこそ永遠なのです」
「それは私によってですね」
「その通りです。ジークフリート」
彼の名を呼んだ。
「素晴らしい人、世界の宝」
「私が宝」
「大地の命、微笑む英雄」
その彼を讃える言葉だった。
「私から離れて下さい、近付かないで」
「それはどうしてですか?」
「貴方に触れられただけで壊れてしまいそうで」
だからだというのだった。
「ですから」
「私に触れられると」
「そうです。もうそれだけで」
言葉がまた恍惚となっていた。
「私はそれによって壊れてしまいます」
「まさか。そんな」
「いえ、そうです」
そして言うのであった。
「澄んだ小川で自分の姿を見たことはありますね」
「それは」
「ありますね」
「はい、そうです」
それはあるというのだった。
「それが何か」
「その中に手を入れてかき回すとです」
「かき回すと」
「その水面が砕けてなくなってしまいますね」
そうなってしまうと。ジークフリートに告げた。
「だからです」
「離れよと」
「そうです。愛を自分に向けて私から離れて下さい」
そうせよというのだ。
「それによって貴方の宝を駄目にしないで下さい」
「私の宝を」
「ですから」
「私は貴方を愛します」
ここでこうブリュンヒルテに返したジークフリートだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ