第百二十四話 評判その九
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今度は福島がこう言ったのである。
「殿、間も無くとのことです」
「伊達か」
「米沢から遂に来ました」
「そうか、遂にじゃな」
「左様です、間も無く美濃に入り」
そしてだった。
「この岐阜にも来ます」
「いよいよじゃな」
「そうです。しかし」
「伊達政宗という者ですが」
加藤嘉明も言って来た。
「あの者、手段を選ばぬところがあるとか」
「かなりの野心家とも言われております」
福島がまた言った。
「会われるのは」
「どうかと思いますが」
「相変わらずじゃな。あの者はそこまで厄介か」
「奥羽の独眼龍といえば実に剣呑な者です」
藤堂も政宗をそうした者だと見ていた。
「ですから会われるとなると」
「この城に呼ばれてはどうでしょうか」
「岐阜城に」
「いや、向こうは忍んで来ておるからな」
伊達の敵は多い、芦名や佐竹だけではない。縁戚である筈の最上とも何かと揉めているのである。その彼等を警戒してなのだ。
「あの者が上洛して来るのを知っているのもな」
「我等と後は限られた家だけですな」
「武田や上杉といった」
天下でも忍を上手に使う家だけだった。
「それと北条ですな」
「北条にとって今の伊達は都合のよい相手じゃ」
伊達の仇敵の一つ佐竹は北条にとっても仇敵だ。その佐竹と争う伊達が都合が悪い筈がないのである。
「知っても誰かに教えることはない」
「特に佐竹や芦名には」
小寺が言う、彼もいるのだ。
「教えませんな」
「何があろうともな」
敵に彼等にとって都合のいいことを教える者なぞいない、特に切れ者の氏康がそうしたことをする筈がなかった。
それでだ、東北の他の家はなのだ。
「あの最上ですら知らぬな」
「最上義光も中々の切れ者ですが」
「佐竹もな」
佐竹家の主佐竹義重もかなりの傑物だ、戦にも強く鬼とさえ呼ばれている程である。
だがその彼等もなのだ。
「独自の忍を持ってはおらん」
「それ故に」
「あの独眼龍が米沢にいないことを知らぬ」
「だからですか」
「この城には呼ばぬ」
決してだというのだ。
「会うのならこっそりとじゃ」
「会われますか」
「そう考えておるがな」
「それではです」
小寺は信長のその言葉を聞いてこう返した。
「周りに武と忠を備えた方を置かれて下さい」
「そうせよというのですか」
「はい」
こう主に言うのだった。
「そうされて下さい」
「相手が独眼龍故にか」
「それがしもあの者は油断がならぬと見ています」
軍師としての言葉だ、今彼も織田家の軍師として知られてきているのだ。
「ですから」
「では誰がよいと思う」
「やはりまずは権六殿です」
織田家の武の二枚看板の攻めの彼だった。
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