第百二十四話 評判その七
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「そしてどうも」
「どうもとは何じゃ」
「公方様ですが」
将軍義昭のことも話尾に出る。
「あの方は勘気の強い方なので」
「今は織田の御輿であるな」
隆元が末弟に言った。
「それがか」
「はい、御輿のままで満足される方かといいますと」
「そうではないか」
「勘気が強くそして誇り高い方です」
将軍であるから当然と言えば当然だが義昭はそうした性格だというのだ。
「それがどうなるか」
「そこが問題か」
「はい、そうです」
「若し公方様から何か仰ってくれば」
今度は元就が言う。
「毛利としても逆らえぬな」
「そうです、特に義昭様は安芸の守護に任じて頂きましたし」
信長もこの程度はと思って黙認しているのだ、確かに幕府の権威が地に落ちている今はどうということはないことだ。
だが元就は策を好む反面義理や忠義に五月蝿い、隆景もそれを言うのだ。
「当家は義理や忠義を大事にする家故」
「策は相手に対してだけじゃ」
その元就も言う。
「その二つを守らぬ家は最後は何処からも信じられぬ様になるわ」
「そして滅ぼされる」
「そういったものを守ることも己の身を保つことになる」
そこまで見ての考えなのだ。
「だからこそじゃ」
「はい、守らねばなりません」
「そもそも裏切りなぞ後味が悪いわ」
武辺の元春の考えではこうなる。
「前から斬るならともかく後ろを斬って何が面白い」
「はい、その通りです」
隆景は次兄の言葉に頷いて返す。
「そうしたことをすればやがては」
「己がそうなる」
隆元も言う。
「だからしてはならんな」
「そうです、何があろうとも」
「では公方様から何か言われれば」
「毛利は武門、そして恩のことを果たさねばなりません」
「そうなるな」
「その通りです」
隆景は長兄にも話す。
「何としても」
「しかしそれでもだな」
「家は守らねばなりません」
とかく毛利にとってはこれが至上の命題だった、義理や忠義を守るということも全てはそれにあるからだ。
「絶対に」
「ではその時はか」
「織田に勝てなければ」
その時はというのだ。
「百六十万石でもです」
「差し出すか」
「そのうえで家を守らねばなりません」
「全ては家の為じゃな」
「家があってこそです」
毛利にとってはそれが大事だった、この辺りは武田や上杉とは違う。むしろ北条に近いと言える考えである。
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