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ジークフリート
第三幕その三

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第三幕その三

「ヴォータンの大胆な心に不安の剣を突き刺した」
「遥かな昔のこと」
「そうさせたのが御前の賢い知恵だった」
 それだというのである。
「その御前なら私に教えてくれることができるのだ」
「私なら」
「そうだ。神はどの様にして」
 その言葉を出した。
「この不安を取り除けるのか」
「貴方は自分が思っているのとは違う」
「何?」
「それもわかっていない」
「わかっていないというのか」
「そう」
 エルダの今の言葉には感情はなかった。だがそれでもその言葉はさすらい人にとってまさに無知と言うべき、そんな言葉になっていたのだった。
「その貴方がまだ問うというのか」
「その御前もだ」
 ヴォータンも彼女に言い返した。
「わかっていないのだ」
「私が」
「自分がどんな女なのかをだ」
 それをだというのだ。
「わかっていないのだ」
「私がわかっていない」
「如何にも」
 言葉をさらに続けていく。
「私の意志の前には御前の知恵も飛び去るのだ」
「それこそが貴方だというのに」
「その御前の知恵も終わりなのか」
 不意にこんなことも言う彼だった。
「最早」
「だとしたらどうするのか」
「もういい」
 彼は言ってしまった。
「眠れ」
「もう永遠に」
「そうだ。眠ってしまうのだ」
 彼はこうエルダに告げた。告げてしまった。
「そしてかつて激しい葛藤の中で絶望の中で決めてしまったことを」
「どうするというのか」
「喜び勇んで行おう」
 そうするというのである。
「激しい嫌悪の中で世界をニーベルングに譲ろうとも覚悟したが」
「しかし今は」
「輝かしいヴェルズングに譲る」
 その若者にというのだ。
「その何の邪気もない若者にだ。その者こそはだ」
「アルベリヒの呪いも意味がないと」
「そうだ、間違いない」
 彼はそう信じ込んでいた。
「だからこそだ」
「そうなればいいのだが」
「きっとなる。そしてあの若者は」
 言葉にいささか希望が宿っていた。諦観と共に。
「ブリュンヒルテを目覚ましこの世を救うのだ」
「ではわたしはもう」
「最早会うことはない」
 彼女に再び告げた。
「さらばだエルダ、原始の母なる恐怖よ」
「そう、私はその中にあるもの」
「もう会うことはない」
 その言葉には寂寥が確かにあった。しかしそれを押し殺し。
「沈むのだ、永遠の眠りへと」
「さようなら、嵐の神よ」
 エルダは沈みながら最期に彼に告げた。
「もうこれで二度と」
 こうしてエルダは消えた。するとそこに新たに人の気配がしてきた。
「来たか」
 さすらい人は気配の方に顔を向けて告げた。
「ジークフリートが」
「ここか」
 そのジークフリートが出て来た。

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