間幕:Ir de tapas (軽食屋巡り)
Canard a l'Orange / 鴨のオレンジソース
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性がいいと思ってるがな」
心に質量があったなら、きっと揺れ動く音が微かに聞こえただろう。
「今回の仕事用に用意しておいたワインが、味見したら思った以上に美味しかったんだ。 これがサン・テミリオンの赤に良く似た味わいで、鴨と合わせると最高なだけど……乾杯する相手がいないと寂しいんだよね」
――あいつらじゃ、ダメなんだよ。
甘い声で囁いて、ドアにそっと耳を当ててみれば、トクトクと早鐘を打つ音が微かに聞こえる。
きっと、ドアを背にして泣いていたのだろう。
少しやりすぎたのかもしれない。
「あと、今夜はいい天気だから星が綺麗だと思うんだ。 夕飯はベランダでどうかな?」
ドアの向こうで、ガタリと身じろぎをする音が聞こえた。
「……サン・テミリオンが何かはわからないけど、あ、アナタがどうしても食べてって言うなら、ちょっとだけ食べてあげてもいいわよ。 で、でも、美味しくなかったら承知しないんだから!」
きっと、意味もなく拳を握り締めて振り回しているに違いない。
ドアの向こうで、顔を真っ赤にしている光景を思い浮かべ、キシリアはそっと微笑んだ。
「本日のお勧めご注文、承りました」
それだけを告げると、キシリアはそっとドアから距離をとった。
「……ごめんね。 面倒な女で」
本当は自分の馬鹿さ加減もよく判ってるんだけど、こればっかりは生まれた性分だからしょうがないの。
でも、こんな私を知ってて苛めるあなたもひどいと思うよ?
キシリアの気配が離れたとを確認すると、フェリクシアは誰にも聞こえないよう、小声でそっと囁いた。
「そのぐらい手間がかかるほうが可愛いよ」
――ひゃあっ!?
思いもよらずかえってきた返事に、フェリクシアの心臓が飛び上がる。
よくよく考えてみれば、屋敷妖精であるキシリアにとっては、この家そのものが耳であり目であるのだ。
どんなに小声で囁いた声も、この家の中にいる限り、彼女に聞こえないという事はありえない。
「キシリア! き、聞き耳を立てるのは卑怯よ! 個人情報保護に違反しているわ!!」
だが、その声にキシリアがこたえることは無かった。
「うわー たらしだ。 よくあんな恥ずかしい台詞真顔で言えるよな」
一連の様子をつぶさに見ていた野次馬から、呆れたような声が上がる。
「あー あれはきっと体が女だからいえる台詞ニャ。 前世は男らしいけどニャ」
そうでなくても、アレは危険すぎて手を出す気になれニャいけど。
そう呟くのはポメ。
何気に兄弟の中では一番色を好む性格である。
まぁ、体格が違いすぎる人間相手に、彼等が本気で欲情することは出来ないのだが。
「げっ、マジかよ!? もったいねぇ……」
ポメの口か
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