間幕:Ir de tapas (軽食屋巡り)
Canard a l'Orange / 鴨のオレンジソース
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と言うものは人の気力と体力をひどく消耗させるため、長時間維持することは存外に難しいものである。
「はいはい、じゃあ何をしたら許してもらえるのかな?」
そして、相手が気力を使い果たし、疲れ果てたところで釣り糸をたらす……なんとも狡猾な交渉術だ。
「だから許さないって言ってるでしょ!?」
まるで子供をあやすような口調で語りかけるキシリアに、噛み付きそうな口調で答えるフェリクシア。
だが、彼女の気力が尽きかけていることを確信したキシリアは、さらに餌を追加する。
「そうだな、テンチャーの肉があまっているから、美味しいフレンチでも作ろうかと思ってるんだけど」
「……いらない」
「ほんとに? 味には自身があるんだけどな」
閉ざされたドアの向こうで、お腹の虫が鳴く音がした。
――よし、勝った。
キシリアはこっそりと心の中で呟く。
「最近、暑くなってきたし……焼いたテンチャーにオレンジのソースをかけた料理なんかどうだろう? 体の中を涼しくしてくれるから、今の季節にはぴったりだと思うな」
「そ、そう……それはよかったよね! それは、と、とてもおいしそうだわ。 でも、貴女と一緒には食べたくないの!」
そのヒステリックな声は、まるで幼子が駄々をこねるかのように投げ遣りで拙く、彼女の我慢が限界まで来ていることを物語っていた。
「家鴨のオレンジソース掛けってのは、フランスという遠い国の、ボルドーという地方の定番料理で、その地方で取れる最高のワイン……特にサン・テミリオン産の赤ワインととても相性がいい料理でね」
脳裏に浮かぶのは、ボルドーの川沿いに延々と続く葡萄畑の光景。
今は二度と帰ることの出来ない遠い故郷。
「鴨肉の癖のある味わいをオレンジの穏やかな甘さと控えめな酸味が魔法のように滋味に変えてくれるんだ。 それこそ、絞め殺してわざと癖と臭いを強くした鴨を使うぐらいに」
単一の素材では食材として不完全でも、別の食材と組み合わせることでそれぞれの個性が魅力に変わる……それこそが料理を行っていて一番不思議に思うことだ。
キシリアは、それを個人的に"神の采配"と呼んでおり、フレンチの世界でも……特にワインの世界でマリアージュと呼ばれる概念である。
「でも、オレンジ自体もけっして脇役に徹しているわけじゃなくて、ちゃんとその個性が引き立っている。 けど、結局は鴨肉だけじゃ癖が強すぎて輝けないし、オレンジだけじゃ物足りなくて料理として成立しない」
――さぁ、あと一息。
「まるで、恋人や夫婦のような関係だと思わないか? 酷い性格の俺と、ダメな性格の君との組み合わせ。 ずいぶんと癖の強い食材だけど、混ぜてみたら案外相性がよいかもしれないだろ? 少なくとも俺は相
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