Episode 3 デリバリー始めました
屋敷妖精達とお座敷戦争
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あろう。
「手を離すな! 今引き上げる!」
「……ダメ! 逃げて!!」
カリーナを引き上げようとするクリストハルトだが、カリーナは突如としてその手を振り払い、彼の手を拒んだ。
「な……なぜだ!?」
理解できない拒絶に目を見開くクリストハルトだが、ふとその耳が調律の狂った弦楽器の音を捉え、あわててその体を翻す。
状況を理解しての行動ではない。
本能に従った結果である。
「……この鏃は人間の男に当たる」
気が付けば、エントランスの手すりから二匹のケットシーがこちらの様子を見下ろしていた。
一匹は先ほど名乗ったマルと言う名の三毛。
そしてもう一匹は虎毛の剣呑な目をしたケットシーだった。
マルというケットシーの周囲には、先ほどと同じく無数のシャボン玉が浮かんでいるが、この攻撃はその威力に反して攻撃速度が非常に遅いためほとんど脅威にならない。
だが、その隣で虎毛が唱えた呪句が問題だった。
――必中の呪い!? なんてレアな!!
フォモールと呼ばれる神々に伝わるソレは、条件さえ満たせば射るモノや投げるモノに絶対命中の力を与える恐ろしい呪術だった。
つまり、攻撃があたらない事だけが弱点であったシャボン玉の攻撃の弱点を、完全に埋めてしまっているのだ。
「や、やめ……」
目を見開くクリストハルトに向かい、無数のシャボン玉が魚の群れのような動きで襲い掛かる。
その動きは風のような素早く、逃れてもすぐに方向を変え、ロクに迎撃をかける余裕すらない。
――こんなことをしている場合じゃない。 早くカリーナを……
気がつけはカリーナの姿はすでに首まで床に沈みこんでいた。
いまならば、床を砕けば救い出せるだろうか?
いずれにせよ、時間はもう無い。
手段は選べないか。
正面から受け止めて突っ切る。 それしか手はない。
覚悟を決めたクリストハルトは、懐から出せるだけの護符を取り出し、乏しい魔力をそこに注ぎ込む。
「くっ……こいやぁぁぁぁっ!!」
全身に守りの力を纏わせたクリストハルトが吼え猛り、続いて爆発音が鳴り響く。
軋む骨の痛みと血の臭い。 そして巨人に殴られたかのような、圧倒的な爆風の力。
だが、ここで退く事は許されない。
刹那の地獄を味わいながら、渾身の力を込めて、彼は荒れ狂う暴力に逆らいその一歩を踏み出した。
「カリーナ!」
濛々と立ち込める土埃を突き抜け、クリストハルトの声が響く。
砕けた鎧を身にまとい、満身創痍の肌を晒し、ガクガクと震える足を叱り付けて、クリストハルは必死にカリーナの姿を追い求めた。
だが、その行為を嘲笑うかのように彼女の姿はどこになかった。
絶望に打ち震える彼の耳に、ふたたびマルが魔楽器を爪弾く音が響く。
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