第5章 契約
第63話 龍の巫女
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る前に外に向かう城門はすべて閉じられて仕舞いますから……。
周辺地域にまで捜査範囲を広げる事は非常に面倒なのですが。
それとも、最後の選択肢は……。
「この街の霧は、強い陰の気を含む」
其処まで考え掛けた俺の思考を遮るように、俺の右隣を歩む湖の乙女が、この時間。逢魔が時に相応しい装いの口調で、そっと呟いた。
その彼女の口元に、彼女が吐き出した微かな吐息が渦を巻き、白き帳を微かに揺らせる。
「水気自体が、多少の陰の気を含むのは当たり前。しかし、この街を包む霧に関しては、確かに強い陰気が含まれているのは間違いないな」
そう、彼女の呟きに対して答えを返す俺。
但し、だからと言って、この霧自体に不審な点が有るかと言うと、そう言う訳では有りません。ただ、霧に包まれる事に因って、多少の陰鬱な気分にさせられる、と言うぐらいで、霧自体が害意や悪意に染まっている訳ではなさそうなのですが……。
ただ……。
ただ、通常ならば、未だ日が落ちてから間がない時間帯で有る事から、通りを歩む人影が存在しなければならない時間帯なのですが、今日に限ってはそんな人々と行き交う事もなく、ただ、昼と夜の狭間の時間帯に、人ならざる者二人がゆっくりと家路をたどっている状況。
更に、厚い霧のヴェールに閉ざされた上空には、紅き月を覆い隠すように重なった蒼い月が遙か下方に広がる大地を覆い、夜と、夜の子供たちに相応しい光明を与える。
そう。今宵はスヴェルの夜。
たそがれ時。いや、より、現在の時刻に相応しい呼び方をするのなら、逢魔が時。世界が、陽の存在で有る太陽星君の支配する光溢れた時間帯から、陰の属性を帯びる太陰星君の支配する夜の世界への移行期。
まして、今宵は、その太陰星君さえ顔を見せる事はなく、偽りの月が世界を支配する夜。
そう。あの夜空に浮かぶ蒼の月は、間違いなく偽りの月。このハルケギニア世界に俺が召喚された日から、一度たりとも満ち欠けをする事のない月。
その蒼が支配する世界の、更に、陰と陽。そのどちらの支配も確立していない覚束ない狭間の時間帯。古くから、魔が追って来る時として認識されていた忌まわしく、不吉な予感の漂う時間帯……。
その瞬間、白い帳の向こう側から、何者かが近付いて来る雰囲気が伝わって来る。
誰そ、彼の言葉に相応しいシチュエーション。
そして同時に感じる、強烈な臭気。それまで感じて居た磯臭いなどと言うレベルでは収まり切らない異常な臭気と、何処か異界から湧き出して来るかのような声。
但し……。
「一人や二人ではないな」
広くはない道に集まる人の群れ。その悪意の数は百を下る事はない。
霧に閉ざされた向こう側から顕われる無秩序で、統一性のない人々
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